原因や特徴・初期症状について

咽頭がんの基本情報

咽頭がんとは

「のど」の咽頭部分に生じるがんを総称して咽頭がんと呼びます。のどは、「咽頭」と「喉頭」の2つの部分に分けられます。咽頭は鼻の奥と食道の間をつなぐ筋肉質の管で、成人で長さ12~15センチメートルほどです。

咽頭は上部から順に「上咽頭」「中咽頭」「下咽頭」に分類され、どの部分にがんができるかによって治療法や治療後の回復の程度が異なります。

咽頭がんの患者数は、日本国内に約7000人と、がん患者全体の約0.5%を占めます。5年生存率は、中咽頭がんが約40~60%、上咽頭がんが35~50%、下咽頭がんが20~40%となっています。

早期発見が難しく、早期(Ⅰ期~Ⅱ期)に発見される患者は10~30%といわれており、とくに上咽頭がんは早期発見率が極めて低いとされます。

がん化がどのように起こるかはまだ解明されていませんが、がんを発症させる危険因子としては、長年の喫煙や過度のアルコール摂取、EBウィルスへの感染(上咽頭がん)、鉄欠乏貧血(下咽頭がん)などがあげられています。

咽頭がんの分類

1.上咽頭がん

上咽頭は、鼻腔から直接続く部分で鼻から吸った空気の通り道で、鼻の奥にあるため肉眼で直接見ることはできません。日本では比較的まれながんですが、東南アジアや中国南部での発症が多いとされます。

上咽頭にはリンパ組織が多いため、かなり早期からがんが首のリンパ節に転移しますが、自覚症状がなかなか現れないため、発見が遅れる傾向にあります。骨や肺、肝臓などへの遠隔転移も多いといわれます。

2.中咽頭がん

中咽頭は、空気と食物の両方の通り道で、扁桃腺(口蓋扁桃)の周辺部分をさし、舌根や口蓋垂、軟口蓋も含まれます。

中咽頭がんは、扁桃腺への発症が半数以上で、次に多いのが舌根への発症です。多くは粘膜の上層に生じる扁平上皮がんですが、小唾液腺から腺がんが発症することもあります。

上咽頭同様、中咽頭にもリンパ組織が多いため、早期から、がんが首のリンパ節への転移がみられ、悪性リンパ腫の発症も少なくありません。

3.下咽頭が

下咽頭は喉頭の後ろ側にあり、食物は下咽頭を通って食道に入ります。もっとも多く発症するのは梨状陥凹で全体の70%を占め、次に多いのが輪状軟骨後部で約20%、後壁が約10%となっています。

大半は粘膜の上層に生じる扁平上皮がんです。初期症状が現れにくいため、Ⅲ期以降の進行がんになってから発見されることが少なくありません。

また、下咽頭がん患者の10~30%が食道がんも併発しています。これは咽頭がんからの転移ではなく、がんがほとんど同時に発生する「重複がん」で、下咽頭がんも食道がんも、喫煙や飲酒によって発症するためとみられています。

咽頭がんの原因

がんを発症させる危険因子といわれるものには次のものがあります。

1.上咽頭がん

EBウィルス(エプスタイン=バー・ウィルス)と関連があるといわれます。このウィルスはめずらしいものではなく、ヘルペスウィルスの一種で、一緒にいつかは大半の人が感染します。鼻や咽頭の細胞や免疫系のB細胞に感染して増殖するとみられています。

2.中咽頭がん

喫煙量やアルコール摂取量と関連があるとみられています。喫煙量が多く、喫煙期間が長いほど、がんの進行が速いとされます。

また、過度のアルコール摂取も体の抵抗力を弱め、がんを進行させます。アルコール自体にも発がん性が確認されていますが、喫煙と飲酒が重なると、ニコチンなど発がん性物質の吸収を促し、がんの発病リスクを高めるといわれます。

3.下咽頭がん

下咽頭がんの70%を占める梨状陥凹に生じるがんは、中咽頭がんと同様、喫煙量と過度のアルコール摂取と関連があるとみられています。

また、輪状軟骨後部にできるがんについては、鉄欠乏性貧血や、プランマー・ビンソン症候群(嚥下障害:食べ物を飲み込みにくくなる症状)に関連があるとみられています。

咽頭がんの症状

1.上咽頭がん

自覚症状がなかなか現れないがんのひとつです。がんが大きくなると、耳管が圧迫され耳がつまったような感じや耳鳴り、難聴など中耳炎と似た症状が現れます。

また、鼻づまりや鼻出血も起こります。さらに症状が進んで頭蓋底からから頭蓋内にがんが広がると、脳神経がおかされて、物が二重に見えたり(複視)、頭痛、神経痛、知覚異常などが起こります。

早期から、首のリンパ節への転移することが多いため、最初の自覚症状としてリンパ節の腫れを自覚する場合も少なくありません。肺や骨、肝臓への遠隔転移も多く、早期にがんを発見できるかどうかで予後の良し悪しが変わります。

2.中咽頭がん

初期症状は、のどの異物感や違和感、物を飲み込むときののどや耳の痛みなどです。しかし、患者の多くが、これらの症状を単なるのどの不調か咽頭炎だろうと軽視して、がんを悪化させています。

扁桃腺が片方だけ腫れきたことにより、がんに気づく場合もありますが、首のリンパ節に転移するまで、大きな自覚症状がない場合もあります。がんが進行すると、物が飲み込みにくい、しゃべりにくいなどの症状や、出血や呼吸困難などが現れます。

3.下咽頭がん

他の咽頭がん同様、自覚症状が現れにくいため早期発見が難しいがんです。がんが大きくなってくると、のどに異物感や違和感、痛み、物を飲み込むときにのどがつまったような感じなどの症状が出てきます。

さらにがんが進行すると、物をうまく飲み込めなくなったり、呼吸困難が起きたり、耳の奥に広がる痛みを感じることもあります。

咽頭がんの診断

1.問診、視診、触診

最初に視診と問診が行われます。中咽頭がんの場合、多くは病巣の有無を肉眼で確認することができますが、上咽頭がんと下咽頭がんの場合は、病巣を直接見ることができないので、ファイバースコープ(極細の内視鏡)を使って視診します。

ファイバースコープは鼻腔または口から入れて咽頭や喉頭の様子を観察します。小さな鏡を使って間接的に病巣を見ることもあります。また、中咽頭がんの場合や、リンパ節への転移が疑われる場合、病巣や首に直接触って診断します。

2.生検(バイオプシー)

視診や触診でがんが疑われる場合、病巣の一部を採取して顕微鏡下で調べることで、がんの確定診断をし、悪性度を調べます。

3.生検

病変の一部を採取し顕微鏡下で観察することで、がんかどうかを判断します。病変の採取は、一般的に、のどへの局所麻酔で行いますが、全身麻酔が必要な場合もあります。

4.画像診断

生検でがんが確認された場合、がんの広がりや転移の有無を調べるために、X線撮影、MRI(核磁気共鳴撮像法)、CT(コンピューター断層撮像法)、超音波(エコー)検査などの画像診断を行います。

下咽頭がんの場合は、食道がんを併発することが多いため、胃カメラを使って検査します。肝臓や肺などへの遠隔転移の有無を調べるために胸部X線撮影やCTも行います。

咽頭がんの病期(ステージ)

上咽頭がん

I期がんが上咽頭内にとどまっている。
I期aがんは中咽頭(口蓋扁桃、軟口蓋など)や鼻腔など隣接組織に浸潤している。
II期b原発巣と同じ側の頸部リンパ節に6センチ以下の転移がある。または咽頭側方から傍咽頭リンパ領域に浸潤がある。
III期骨組織や副鼻腔に浸潤している。両側の頸部リンパ節に6センチ以下の転移がある。
IVa期頭蓋内、脳神経、眼窩などへ浸潤している。両側の頸部リンパ節に6センチ以上の転移がある。
IVb期がんが鎖骨上窩まで、および遠隔転移がある。

中咽頭がん

I期がんの大きさが2センチ以下。
II期がんの大きさが2~4センチ。
III期がんの大きさが4センチ以上で頸部リンパ節への転移はない。または、同側の頸部リンパ節に3センチ以下の転移が1ヵ所ある。
IV期a下顎や下深層(筋、喉頭)などへ浸潤している。病巣と反対側または両側の頸部リンパ節に6センチ以上の転移があり多発している。
IV期b腫瘍が遠隔転移している。

下咽頭がん

I期がんの大きさが2センチ以下で下咽頭の1つの部位にとどまっている。
II期がんの大きさが2~4センチで、下咽頭の2つ以上の部位に及んでいる。
III期がんの大きさが4センチ以上の、下咽頭の2つ以上の部位、および喉頭の中に浸潤している。または病巣と同側の頸部リンパ節に3センチ以下の転移が1つある。
IV期a周囲組織(軟骨、筋肉、甲状腺、食道など)に浸潤している。病巣と反対側、または両側の頸部リンパ節に6センチ以上の転移があり多発している。
IV期b腫瘍が遠隔転移している。

咽頭がんの治療法

上咽頭がん

Ⅰ期・Ⅱ期

放射線治療を中心に行う。広範囲に照射後、局所的に照射する。がんの残存や再発の場合はリンパ節とその周囲をリンパ節とその周囲を切除する(頸部廓清術)


Ⅲ期

Ⅰ期~Ⅱ期と同様の治療に化学療法を併用することもある。


Ⅳ期

放射線治療と化学療法を行う。加えて、対症療法、緩和療法を行う。

中咽頭がん


Ⅰ期・Ⅱ期

放射線治療、または外科治療を行う。


Ⅲ期・Ⅳ期a

外科手術が中心で、手術の前後に放射線治療を行う。リンパ節転移がある場合は頸部廓清術を行う。手術と同時に切除した部分の再建を行うこともある。


Ⅳ期

対症療法、緩和療法を行う。

下咽頭がん

Ⅰ期

放射線治療を単独で行う。または、喉頭温存手術を行う。

Ⅱ期

下咽頭、喉頭、頸部食道の部分切除や全抜去術などの外科手術後、放射線治療を行う。頸部のリンパ節を廓清することもある。

Ⅲ期・Ⅳ期a

外科手術後、放射線治療を行う。化学療法を併用する場合もある。外科手術で、頸部のリンパ節も廓清する。手術前に化学療法を行うこともある。

Ⅳ期

対症療法、緩和療法を行う。


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監修:孫 苓献(広州中医薬大学中医学(漢方医学)博士・アメリカ自然医学会(ANMA)自然医学医師・台湾大学萬華医院統合医療センター顧問医師)