special がん情報誌の特集記事
欧米において補完代替医療は、多くの臨床研究で有効性が認められ、「エビデンス(科学的根拠)に基づいた医療」として、広く実践されている。日本では、補完代替医療についての理解が乏しかったが、近年、厚生労働省による補完代替医療のガイドラインや学術会議などで、「クリニカル・エビデンス」という言葉も使われるようになった。そこで今、医療現場ではどのように補完代替医療が使われているかを、漢方薬に焦点を当てて取り上げてみたい。
エビデンスの証明で評価を受ける抗がん漢方薬「THLーP」
現在、日本では補完代替医療の中でも、「漢方」が一定の評価を受けている。「標準治療プラス1のがん治療」として選択されているのだ。厚生労働省のガイドラインでも、補完代替医療を適切に利用していくことが推奨されている。がん研有明病院や多くの大学病院でも、「漢方外来」を設けて、がん治療のサポートをしているのである。“漢方の本場”である中国の医師が、30年前に研究開発された抗がん漢方薬「THL – P」(「天仙液」の英文表記)は、数多くの研究、臨床試験を重ね、エビデンスが積み上げられて、世界各国の医学誌にも発表されている漢方薬である。その薬理作用と効果を検証する。
補完代替医療の現状と漢方薬への期待
厚生労働省が2005年に報告した「我が国のがん患者における補完代替医療の実態調査」(第1期:2001~2004年度)によれば、1種類以上の補完代替医療を利用した人が約45%いることがわかっている。そして、補完代替医療を利用した患者さんでは、「効果を実感できている」と答えた人が22%で、「効果を実感できなかった」と答えた人はわずか6%だった。この調査では、補完代替医療に対する医師(腫瘍内科医)の意識調査も実施している。大半の医師は健康食品やその他の補完代替医療にネガティブな評価(知らない、実践なし、推薦しないなど)をしているが、漢方に対してだけは18%の医師が「実践している、推薦する」と答えている。
その後、厚生労働省は、第2期として「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」(2005~2008年)、第3期として「がんの代替療法の科学的検証に関する研究」(2009~2011年)を実施。研究結果は『がんの補完代替医療ガイドブック第3版』にまとめられている。このガイドブックの中に、漢方薬について次のような記述が見られる。
《日本では、漢方薬は厚生労働省によって承認された医薬品であり、保険適用が認められている医療用漢方薬と、薬局で購入できる一般用漢方薬があります。》
《一方、欧米において漢方薬は、ハーブ・食品として補完代替医療に分類されています。しかし最近、米国では漢方薬の有効性を証明するため、わが国の医療用漢方エキス製剤を用いた臨床試験が進行中で、漢方薬は海外においても注目を集めていると言えます。》
《漢方薬は、がんの治療に関しては、西洋医学に対する補完的な位置付けとして考えるのが妥当だと思われます。しかし、西洋医学と漢方医学のどちらが優れているということではなく、それぞれの良いところを状況に合わせて利用することが重要です。》
《がん治療における漢方薬に期待されている役割は、再発・転移の抑制(予後の改善)、化学療法・放射線療法の副作用軽減、生活の質(QOL)の改善が主なものになります。》
このようにがん治療において、漢方薬が一定の役割を果たしており、適切に使用することが推奨されていることがわかる記述となっている。
中国政府が認可した抗がん漢方薬「THLーP」
漢方医学を中国では「中医学」と呼ぶが、これまで多くの漢方薬開発が行われている。そうした中から、1988年に抗がん漢方薬の「THL – P」(「天仙液」の英文表記)が、国家衛生部(日本の厚生労働省に相当)によって認可されている。この抗がん漢方薬を開発したのは王振国医師(現・吉林省通化長白山薬物研究所所長、振国中西医結合腫瘍病院院長)で、臨床試験で有効性と安全性が証明されたことにより、認可されることになった。抗がん漢方薬の認可は、中国でもこれが初めてのことだったという。
「THL – P」には、冬虫夏草、霊芝、人参(朝鮮人参)、黄耆、枸杞子、白朮、甘草、半枝蓮、白花蛇舌草、莪朮、女貞子、珍珠、天花粉、青黛、猪苓など、抗がん作用のある生薬を中心に、20種類以上の生薬が配合されている。漢方の理論に基づいて多くの生薬が配合されることで、複合作用により、抗がん効果が高められているのである。
抗がん漢方薬の薬理作用と効果
抗がん漢方薬「THL – P」が、どのようにして抗がん作用を発揮するのか、簡単に説明しておく必要があるだろう。多くの生薬が配合されていることで複合作用が生じるのだが、「THL – P」の抗がん作用は、01. がん細胞の増殖を抑制する働き、02. 体内環境を改善する働き、03. がんの原因を除去する働き、という3つに分けることができる。それぞれについて解説しておこう。
01. がん細胞の増殖を抑制する働き
▼血管新生阻害作用
がんは増殖するために新しい血管を作り、栄養を取り込もうとする。その血管ができないようにし、がん細胞を断食状態にする働きである。半枝蓮、霊芝、甘草、冬虫夏草などの生薬にこの作用がある。
▼がん細胞成長阻止作用
がんの増殖には多くのエネルギーが必要となるが、それを不足状態にする働きである。半枝蓮、甘草、白花蛇舌草、冬虫夏草などの生薬にこの作用がある。
▼アポトーシス誘導作用
アポトーシスとはがん細胞の自滅死のこと。その自滅スイッチをオンにする働きである。白花蛇舌草、半枝蓮、霊芝、冬虫夏草、女貞子、黄耆、人参、莪朮などの生薬にこの作用がある。
02. 体内環境を改善する働き
▼免疫増強作用
体内の防衛システムである免疫を元気にする働きである。甘草、半枝蓮、白花蛇舌草、冬虫夏草、霊芝、黄耆、人参、女貞子、枸杞子、白朮などの生薬にこの作用がある。
▼肝保護作用
有害物質を無毒化することで、体内の解毒作用を担っている肝臓を保護する働きである。莪朮、黄耆、白花蛇舌草、半枝蓮、霊芝、白朮、甘草などの生薬にこの作用がある。
▼血流促進作用
血液の流れをスムーズにする働きである。冬虫夏草、黄耆、人参、霊芝、甘草などの生薬にこの作用がある。
03. がんの原因を除去する働き
▼抗酸化作用
酸化によって遺伝子が傷つくことが、がんを発生させる原因となっている。その酸化を抑える働きである。人参、冬虫夏草、白花蛇舌草、半枝蓮、霊芝、黄耆、莪朮、枸杞子、白朮などの生薬にこの作用がある。以上が、抗がん漢方薬「THL – P」の主な薬理作用とその効果である。
各国の医学誌でも発表された「THL – P」の研究結果
漢方薬にはエビデンス(科学的根拠)がないと思われがちだが、抗がん漢方薬「THL – P」にはしっかりしたエビデンスがそろっており、各国の医学誌や公式サイトに掲載されている。がん研究の世界的な権威のアメリカ国立がん研究所(NCI)の公式サイトにも掲載されている。以下に、代表的な研究結果を紹介しておこう。
国立台湾大学医学院付属医院による「THL–P」の臨床試験
国立台湾大学医学院附属医院で「THL – P」の臨床試験が行われた。試験の対象となったのは、入院中の転移性乳がんの患者さんで、A. 化学療法・放射線療法・外科手術を受けたが効果が見られない、B. これ以上標準治療(化学療法・放射線療法・外科手術)を受けたくない、C. 余命が最低4週間以上あると見られる、という条件を満たしていた44人である。「THL – P」を服用する群(30人)と、プラセボ(偽薬)を服用する対照群(14人)にランダムに振り分けられ、どちらを服用しているのか本人も医師もわからない二重盲検法による試験が行われた。
その結果、QOL(生活の質)に関しては、THL – P群で改善が見られたが、プラセボを服用した対照群では改善が見られなかった。また、血液生化学検査から、THL – P群では化学療法の副作用が軽減し、免疫機能が向上していることが明らかになった。また、THL – Pを服用した30人のうち、66 ・7%に効果が現れて継続服用を希望し、80%が効果を実感できた。
この臨床試験の結果は、アメリカ国立衛生研究所の公式サイト、イギリス補完代替医療学会誌と公式サイトに掲載されている。
新薬開発研究所中央研究所による「THL–P」の研究試験
医薬品の検査機関として権威のある新薬開発研究所において、マウスを使った抗腫瘍作用に関する試験が行われている。試験用マウス(32匹)に腫瘍を移植し、14日後に、THL – P(8匹)、THL – P強効型(8匹)、水(16匹)を経口投与した。投与終了の翌日に腫瘍を摘出して腫瘍重量を測定した。その結果、水を投与した対照群に比べ、THL – P群では腫瘍重量が平均62.0%減少(最大値は89.4%減少)、THL – P強効型群では平均84.0%減少(最大値は94.1%減少)していた。これらの結果から、高い抗がん作用が実証された。
ここに紹介したのは、各国の医学誌や公式サイトに紹介された研究の一部に過ぎない。「THL –P」が抗がん漢方薬として研究開発され、承認されてから30年余りが経過しているが、この間に多くの研究が行われ、エビデンスが積み重ねられてきている。
日本における「THL – P」の入手方法
現在、「THL – P」は世界の20ヵ国以上に供給されており、高い評価を得ている。香港、タイ、シンガポール、マレーシアなどでは、医薬品(漢方薬)として許可されており、台湾、フィリピン、ルーマニアなどでは、許可を受けたサプリメントとして流通している。日本では医薬品としては認可を受けていないが、海外の医薬品として認知されており、個人輸入の形で入手することが可能である。
※がん情報誌『ライフライン21 がんの先進医療』「補完代替療法/漢方薬編」記事より