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みんな経験する?がんの痛みや治療法について解説
がんの痛みや治療法について

がんになると痛みを経験する人が多くいます。通常、痛みは、身体に何らかの異常が生じているサインでもあるため、ひどい怪我や火傷など命に関わる危険を避けるためにも必要なものです。しかし、がんにおける痛みは、長期間にわたって患者を苦しめるので、がん治療の継続のためにも痛みを取り除くことが重要です。
今回は、がんによって起こる痛みや治療法について解説します。

1.多くのがん患者が痛みを経験する

多くのがん患者が痛みを経験する

痛みは、人体の損傷や障害の際に現れる不快な感覚や感情的な体験と定義され、社会的な要素やスピリチュアルな要素など様々な理由により痛みの感じ方も変化します。そのため、がんの痛みについても個人差があり、環境の変化によって痛みを強く感じることもあるため早めに治療していくことが重要です。
がんによって生じる痛みは、多く人が経験する症状であり、体性痛と呼ばれる皮膚や骨、筋肉、関節などの痛みは71%、内臓痛が34%、神経障害疼痛と呼ばれる痛みについても39%もの人が感じると報告されています。
がんによって起こる痛みは、吐き気や嘔吐、発汗などの症状も伴うため、患者の心身の状態を良好にするためにも適切な痛みへの対応が必要です。

1-1.がんの症状としての痛み

がんは、症状が進行すると肥大化していき、様々な部位へと転移します。がん自体が骨や筋肉、消化器官や肺などの内臓、神経などを侵食し、圧迫することで痛みが生じます。
がんが広がることで起きる痛み以外にも、がんによって生じる高血圧で頭痛が起きることもあります。

1-2.がん治療による痛み

・外科手術
がんの治療を進めるうちに痛みが生じることもあります。がんを直接除去する外科手術は、身体を直接的に治療していくため、術後痛症候群と呼ばれる周辺症状があらわれる場合があるので注意が必要です。

・抗がん剤
抗がん剤を使用する化学療法でも痛みが生じることがあります。薬剤の種類や用量、投与方法によって痛みが起きる頻度は変わってきますが、神経痛があらわれます。糖尿病や神経障害を合併している場合には発症率も高くなることが報告され、感覚障害以外にも運動神経、自律神経にも影響が起きることもあるので注意が必要です。日常生活に問題が起きる場合は抗がん剤の投与量の変更などを考える必要があります。

・放射線療法
放射線を当てる部位によっては痛みが生じることもあります。咽頭や食道など粘膜部位に炎症が起き、痛みが生じたり、放射線が当たる皮膚がヒリヒリしたりする場合があります。

1-3.がん治療の経過によって起こる痛み

長期間の入院や加齢などによって筋肉量が減少すると腰痛や関節痛が起きる場合があります。また、がんとは関係なく、脊椎管狭窄症や帯状疱疹などの痛み、片頭痛などの痛みもがん治療と並行して対応することが求められ、痛みの種類をよく観察することが重要です。

2.痛みには種類がある

痛みには種類がある

がんによって起こる痛みは大きく分けて「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」に分けられます。侵害受容性疼痛はさらに「体性痛」と「内臓痛」に分けられ、それぞれの痛みはがんによって侵食された臓器や組織などによって変化します。体性痛や内臓痛、神経障害性疼痛は、同時に起こることも珍しくありません。

2-1.体性痛

体性痛は、皮膚や骨、筋肉、関節などの組織にがんが転移したり、広がったりすることで起きる痛みです。骨にがんが転移することで骨組織が破壊されたり、筋膜や骨格筋に炎症が起き損傷したりすることで痛みが発生します。切る、刺す、叩くなどの機械的刺激と呼ばれるものに近く、うずくような痛みや鋭い痛みがあらわれます。

2-2.内臓痛

食道や小腸、大腸などの消化管、肝臓や腎臓などの臓器にがんが転移することで起きる痛みです。体性痛と比べて急激な痛みというよりは、鈍い痛みを感じやすいとされています。内臓痛は、深く絞られる、押されるような痛みで、具体的な痛む部位がわかりづらいことが特徴です。

2-3.神経障害性疼痛

がん転移やがんの肥大化による神経組織への圧迫、手術療法や化学療法、放射線療法の副作用などによって神経障害性疼痛が生じることがあります。損傷した神経によって様々な痛みや感覚異常があらわれます。末梢神経以外にも中枢神経に影響した場合、運動障害や自律神経も障害されることがあります。
刃物で刺すような痛みや焼けるような痛みがあらわれますが、痛覚過敏やしびれなどもみられることがあるので早期の対策が必要です。痛覚過敏は、通常では痛みを感じない刺激にも痛みを感じてしまう状態です。

2-4.パターンによる痛みの分類

1日のうち12時間以上継続する痛みは「持続痛」と分類されます。持続痛は、定期的に鎮痛薬を投与することで対応します。しかし、定期的に鎮痛薬を使用して持続痛を抑えても痛みが突発的にあらわれることもあります。痛みがコントロールされている状態であらわれる一過性の痛みは、「突出痛」と定義され、必要に応じて鎮痛薬の追加などの治療が必要です。

3.がんの痛みに対する治療法とは?

がんの痛みに対する治療法とは?

がんの診断時には20〜50%、進行がんでは70〜80%の人が痛みを感じているとされ、多くの人ががんの痛みに苦しめられています。がんによる痛みは、基本的に速やかな治療の開始が重要です。少しでも痛みを感じている場合は、主治医へすぐに相談していくことが痛みへの早期治療につながります。
がんの痛みに対しては、通常の鎮痛薬に加えてオピオイド鎮痛薬と呼ばれる医薬品が使用されます。また、神経痛や内臓の痛みなどは原因によって治療薬が使い分けられます。

3-1.WHOがん疼痛ガイドラインが制定されている

世界保健機関(WHO)は、がんによって起こる痛みに対して有効な対策をするために「WHO方式がん疼痛治療法」を作成しています。世界中の人々が、がんの痛みに対して効果的に安全な痛みへのケアが受けられることがWHOがん疼痛ガイドラインの目標です。ガイドラインでは、オピオイド鎮痛薬を適切かつ効果的な管理をして患者への安全性の確保が求められています。鎮痛薬の使用に関してもできるだけ経口で、時間を決めて、徐痛ラダーにそって、患者ごとに細かい配慮を持って投与することとされています。
徐痛ラダーは、3段階に分けられており、第1段階で非オピオイド鎮痛薬が使われます。第2段階では、非オピオイド鎮痛薬と並行して軽度から中等度の痛みに対応したオピオイド鎮痛薬が使用されます。第1段階や第2段階でも痛みへの効果が見られない場合は第3段階へ移行し、中等度から高度の痛みに対応したオピオイド鎮痛薬が投与されます。

3-2.非オピオイド鎮痛薬

非オピオイド鎮痛薬は、ロキソプロフェンやイブプロフェンなどのNSAIDsやアセトアミノフェンなどの通常の解熱鎮痛薬に分類される医薬品です。NSAIDsは、痛みや炎症などを引き起こすプロスタグランジンを生成するシクロオキシゲナーゼを阻害することで、痛みを抑えます。がんによる痛みについては第1段階から使用を推奨されており、がんの終末期にまで併用することでオピオイド鎮痛薬の効果を補助すると考えられています。

3-3.オピオイド鎮痛薬(医療用麻薬)

オピオイド鎮痛薬は、医療用麻薬とも呼ばれ、がん性疼痛のケアにおいて中心的な治療薬です。中枢神経や末梢神経に存在するオピオイド受容体に働きかけ、鎮痛効果を発揮する医薬品で、通常の鎮痛薬よりも強力な鎮痛効果があります。副作用として眠気や便秘などがありますが、がん治療においては依存症や麻薬中毒を起こすことはありません。また、痛みの軽減が見られた場合は、減量や中止も可能です。

3-4.鎮痛補助薬

がんに関連する神経障害疼痛に対しては、抗うつ薬や抗痙攣薬の使用が推奨されています。抗うつ薬は、うつ病の治療よりも少量で使用され、効果の発現も早いとされています。
抗痙攣薬は、神経の過剰な働きを抑制する働きがあり、神経障害による痛みについても神経の働きを抑えて痛みを抑えます。
がんの痛みへの治療にはステロイドが使用されることがあります。痛みの原因となる炎症を抑えることで痛みを抑制すると考えられています。

3-5.内臓痛への治療

がんの浸潤や炎症などによって生じる痛みは非オピオイド鎮痛薬やオピオイド鎮痛薬が有効ですが、消化管が炎症や狭窄、閉塞して内圧が上昇して生じる痛みには、消化管の内圧上昇への対応が必要です。消化管の内圧上昇の原因が便秘である場合は、便秘に対する治療を行います。がんの浸潤などによって腸管が狭窄、閉塞している場合は消化液の分泌量を減らすオクトレオチドや消化管の動きを落ち着かせるブチルスコポラミンが使われることもあります。

3-6.放射線治療

がんの骨転移による痛みに放射線治療が行われることがあります。骨転移によって痛み以外にも骨折する場合があるため、骨転移への治療は患者の生活の質にも大きく影響します。骨転移への放射線治療は、病巣を縮小させ、早期に症状を改善する方法として有効であり、約80%の人が痛みの改善があったとされています。

3-7.ビスホスホネート

ビスホスホネート製剤は、骨粗鬆症の治療薬として使用される医薬品ですが、骨転移によって起こる痛みに対して使用されることもあります。ビスホスネートは、骨からカルシウムが放出される骨吸収を抑制する作用があるため、がんによる高カルシウム血症や骨転移痛を抑制します。
骨転移に対する放射線治療が行えない場合や痛みの範囲が広い場合は、放射線治療に代わってビスホスネートが選択されます。

4.がんのあらゆる苦痛に対する治療としての緩和ケア

緩和ケア

緩和ケアは、がんによって起こるあらゆる苦痛を和らげて生活の質(QOL)の向上を目的とした治療です。がんと診断された時から緩和ケアが始まり、薬物療法以外にもカウンセリングやリハビリ、患者の家族へのケアなど様々な面から患者をサポートしていきます。

4-1.身体的苦痛以外にもケアする

緩和ケアでは、がん自体による痛みや治療の副作用などの身体的苦痛以外にも精神的苦痛や社会的な苦痛に対してのケアも行われます。臨床心理士によるカウンセリングや理学療法士によるリハビリなどの医療からのアプローチ以外にも医療費や治療中の就労についてもソーシャルワーカーを通じてサポートを受けられます。また、身体機能の低下によって介護が必要になった場合、ケアマネージャーを通して必要なケアを選べます。

4-3.緩和ケアによってQOL(生活の質)が向上する

がんに関連する患者の苦痛を軽減することで、治療に対して前向きにとらえる気持ちを持つことにもつながります。また、患者の家族に対してもカウンセリングなどのケアを行って、日常生活をより良いものにします。患者が大切にしていることや一番重要と考えていることを知り、患者の生きる意味や心の穏やかさ、尊厳につながるものを強化していくことも緩和ケアの重要な目的の一つです。

4-3.延命にも期待できる

がんの診断を受けて早期から緩和ケアを受けることで終末期の治療行為が減り、延命効果にも期待ができます。2010年のアメリカで行われた研究では、転移のある肺がん患者に対して通常の抗がん剤治療単独で行ったグループと、抗がん剤治療と並行して緩和ケアを早期から行ったグループに分けて調査しました。抗がん剤単独治療のグループでは、生存期間が8.9ヶ月だったのに対して緩和ケアを並行して行ったグループでは11.6ヶ月も生存したと報告されています。また、緩和ケアを行ったグループでは、うつ状態や不安、大うつ症状など精神的な症状についても減少したと報告されています。
緩和ケアを早期から受けることで生存期間が延長するだけではなくメンタル面でも良い影響があると考えて良いでしょう。

5.まとめ:がん治療にはトータルペインへの対応が重要

がん治療にはトータルペインへの対応が重要

がん患者が経験する苦痛は、身体的要因、精神的要因、社会的要因、スピリチュアル的要因と多方面に存在します。それぞれの苦痛の要因は互いに影響しているため、マルチにケアしていくことが重要です。コントロールの難しい身体的な痛みがあっても精神的な苦痛やスピチュアルな痛みをケアすることで、苦痛に耐えられる人生の意味を見つけられる可能性もあります。
がんに伴う痛みに対して、医療用麻薬などの身体的苦痛のケアが緩和ケアでは重要な役割を果たしていますが、トータルペイン(全人的苦痛)に対するケアを考えていくことも求められるようになっています。