
末期がん患者が穏やかに自分らしく過ごすには、QOL(生活の質)向上に向けた取り組みが重要です。
QOLが向上すれば身体面・メンタル面ともに安定した生活が得られ、残りの人生を楽しく生きられます。
今回は、末期がん患者がQOLを向上させる緩和ケアの考え方や具体的な方法について解説します。
残りの人生を最後まで幸せな気持ちで過ごしたいという方は、ぜひ最後までご覧ください。
1.末期がん患者にとってQOLが重要な理由
●痛みや苦痛が大きいから
●生活に支障をきたすから
●症状を悪化させてしまうから
QOLの向上によって上記の問題が解決されれば、末期がん患者であっても穏やかな気持ちで幸せな生活が送れるでしょう。
以下では、それぞれについて詳しく解説します。
1-1.痛みや苦痛が大きいから
がんの進行にともない、痛みや苦痛は大きくなる可能性があります。
がん細胞が増殖すると、臓器などの生体組織が圧迫されて直接的なダメージが加わるからです。
また、手術や化学療法といったがん治療そのものが痛みを誘発するケースもあります。
国立がん研究センターは2020年に、がん患者の療養生活に関する調査結果を発表しています。
調査結果によると、亡くなる1ヶ月前に身体的な痛みや苦痛を感じていたがん患者は約半数とのことでした。
出典:国立がん研究センター
1-2.生活に支障をきたすから
がんにより慢性的な痛みや苦痛が生じれば、生活に支障をきたします。
例えば、痛みがあり夜に眠れないといった事例があります。
十分な睡眠が取れなければ、まともな生活は送れなくなるでしょう。
また、身体を動かした際に痛みが生じる場合も、QOLが高い状態とはいえません。
QOLを高めて日中・夜間にかかわらず痛みを感じない状態となれば、生活の満足度が向上します。
社会復帰を実現するためにも、QOL向上に向けた行動は非常に重要です。
1-3.症状が悪化してしまうから
末期がんと診断され余命宣告を受けたことで、症状がさらに悪化してしまうケースもあります。
余命宣告を受けた瞬間の精神的なダメージは計り知れないでしょう。
しかし、末期がんと診断されても健常者のように楽しく生活している人もいれば、強い落ち込みやネガティブ感情に支配され生活がままならなくなる人もいます。
食事や睡眠がまともに取れなくなれば、症状の悪化を加速させることは容易に想像できるでしょう。
QOLが向上すれば症状の悪化を抑制でき、健常者のような満足度・幸福度の高い人生に繋がります。
1-4.生活に支障をきたすから
がんにより慢性的な痛みや苦痛が生じれば、生活に支障をきたします。
例えば、痛みがあり夜に眠れないといった事例があります。
十分な睡眠が取れなければ、まともな生活は送れなくなるでしょう。
また、身体を動かした際に痛みが生じる場合も、QOLが高い状態とはいえません。
QOLを高めて日中・夜間にかかわらず痛みを感じない状態となれば、生活の満足度が向上します。
社会復帰を実現するためにも、QOL向上に向けた行動は非常に重要です。
1-5.症状が悪化してしまうから
末期がんと診断され余命宣告を受けたことで、症状がさらに悪化してしまうケースもあります。
余命宣告を受けた瞬間の精神的なダメージは計り知れないでしょう。
しかし、末期がんと診断されても健常者のように楽しく生活している人もいれば、強い落ち込みやネガティブ感情に支配され生活がままならなくなる人もいます。
食事や睡眠がまともに取れなくなれば、症状の悪化を加速させることは容易に想像できるでしょう。
QOLが向上すれば症状の悪化を抑制でき、健常者のような満足度・幸福度の高い人生に繋がります。
2.末期がん患者のQOLを向上させるキーワードは「緩和ケア」
緩和ケアとは、疾患により生じる身体的・精神的・社会的な問題を改善していくアプローチのことです。
末期がんがもたらすあらゆる問題を解消し、自分らしく生き抜く術を身につけるためには、緩和ケアの理解が必須です。
以下では、身体面・精神面・社会面の緩和ケアについて詳しく解説します。
2-1.身体面の緩和ケアによるQOL向上
身体面の緩和ケアでは、以下のような症状に対してアプローチをおこないます。
●がんの進行にともなう苦痛
●がんの検査にともなう苦痛
●がんの治療にともなう苦痛
がんが進行するとがん細胞が生体組織を圧迫し、痛みを生じる可能性があります。
また、抗がん剤の服用によって吐き気などの副作用が生じるケースも考えられるでしょう。
これらの症状を緩和し、痛みのない生活を目指してQOLを向上させるのが、身体面の緩和ケアです。
2-2.精神面の緩和ケアによるQOL向上
精神面の緩和ケアでは、以下のような症状に対してアプローチをおこないます。
●診断結果を告げられるまでの不安
●診断結果を告げられたことによる精神的ダメージ
●症状が悪化していくことに対する恐怖
がんと告げられた際の精神的ダメージは、不眠や抑うつ症状を誘発する可能性があります。
感情が不安定になり、倦怠感や喪失感に襲われるケースもあるでしょう。
精神面の緩和ケアでは、専門家によるカウンセリングなどがおこなわれます。
末期がん患者本人だけでなく、その家族に対する心のケアも精神面の緩和ケアに含まれます。
2-3.社会面の緩和ケアによるQOL向上
社会面の緩和ケアでは、以下のような症状に対してアプローチをおこないます。
●がん治療による休職・退職
●がん治療にかかる費用に対する不安
●家族・将来に対する負担
がんが進行すれば社会的にも大きな不安が生じるでしょう。
末期がんで身体をまともに動かせなければ、仕事を続けることは困難です。
また、経済的な不安や家族・将来への負担も大きくなり、心理的な苦痛に繋がるケースは少なくありません。
社会的な不安が生じた際は、ソーシャルワーカーへの相談が可能です。
ソーシャルワーカーは、精神面や社会面における問題の解決を支援する役割を果たします。
孤独にならず専門家の力を借りて有効な手段を取ることが、社会面の緩和ケアを受けるうえで重要といえます。
3.末期がん患者がQOLを向上させる具体的な方法
以下では、末期がん患者がQOLを向上させる具体的な方法について解説します。
●QOLを維持できる治療法を選ぶ
●栄養補給により症状を緩和する
●痛みを抑える鎮痛剤を服用する
●漢方薬を補助的に用いる
●家族や医師に相談する
3-1.QOLを維持できる治療法を選ぶ
がん治療においては、可能な限りQOLを維持できる方法を選択することが重要です。
以下では、検討すべき治療法について紹介します。
① 必要最小限の範囲のみ切除する|機能温存手術
手術の際に、必要最小限の範囲のみ切除しがん組織を取り除く手法を「機能温存手術」といいます。
正常組織の切除を最小限に抑えられるため、生体機能を維持できるのが特徴です。
例えば、直腸がんの治療として手術をおこなう場合、肛門を避けて手術をおこなうことで排泄機能を失わずに済みます。
生きるうえで必要な機能を維持できるため、QOLの低下を抑えられる手法といえます。
② 切除で失われた機能を取り戻す|再建手術
手術の際にやむを得ず必要な組織を切除し、生体機能の一部を失ってしまった場合は、失われた機能を取り戻す「再建手術」が有効です。
例えば、胃がんで胃の大部分を切除してしまうと食べ物を消化する機能が失われます。
再建手術は、残った胃と腸を繋ぎ合わせるなどして、もとの生体機能を回復させる手法です。
このように、一度生体機能が失われても再建手術によってQOLを取り戻せる可能性があります。
また、乳がんで乳房を切除した後、乳房を取り戻す手術も再建手術に含まれます。
③ 副作用を抑える薬剤を併用する|支持療法
がん治療において抗がん剤を用いた化学療法をおこなう場合、副作用が生じるケースがあります。
抗がん剤とともに副作用を緩和するための薬剤を服用する方法を、「支持療法」といいます。
例えば、抗がん剤によって吐き気の副作用が生じる場合は、抗がん剤と制吐剤の同時服用が有効です。
副作用を抑えつつがん治療をおこなえるため、QOL向上に繋がるといえます。
また、副作用により抗がん剤によるがん治療を断念するリスクも減らせるため、長期的に高い治療効果が見込めます。
3-2.栄養補給により症状を緩和する
末期がん患者のQOL向上においては、栄養補給の徹底も重要です。
身体にとって必要な栄養が不足している状態では、体力が低下してしまいがん症状も悪化する可能性があります。
以下では、末期がん患者が意識すべき栄養補給のポイントを解説します。
① 食事管理
栄養補給の基本として、栄養バランスの取れた食事を取ることが挙げられます。
米などの主食に加え、卵、豆腐、ヨーグルトなどの乳製品を取り入れると免疫力アップが見込めます。
食べ物を細かくすりつぶして食べやすくすることも、食事管理としては有効です。
ただし、無理して食べ物を口に入れるとかえって逆効果となるケースもあるため、注意が必要です。
例えば、吐き気による食欲不振が原因で食べ物が喉を通らない場合は、制吐剤を処方してもらうといった対処法が考えられます。
症状において適切な対処法は異なるため、あらかじめ医師に相談してください。
② 中心静脈栄養法
食べ物が喉を通らない期間が1週間以上続いた場合、中心静脈栄養法が用いられるケースがあります。
中心静脈栄養法とは、静脈に繋げられた管を通して栄養輸液を送り込む方法です。
胃腸を経由せずに直接血液に届くため、胃腸に負担をかけません。
栄養輸液としては、人間が生きるうえで必要となる糖質、アミノ酸、脂質、ミネラルなどを含んだ高カロリー輸液が用いられます。
一方で、中心静脈栄養法ではカテーテルを静脈に挿入した状態をキープする必要があるため、カテーテル挿入部にて感染症が生じるリスクがあります。
中心静脈栄養法は、食事による栄養補給がどうしても不可能なときの最終手段と考えておくのが良いでしょう。
3-3.痛みを抑える鎮痛剤を適切に用いる
WHO(世界保健機関)は1986年に、がんの痛みをなくしがん患者のQOLを向上させるためのマニュアルとして「WHO方式がん疼痛治療法」を発表しました。
現代においてWHO方式がん疼痛治療法は多くの医師に活用されています。
WHO方式がん疼痛治療法は、症状に合わせて鎮痛剤の強さを変えるという考え方が基本です。
例えば、痛みが小さいときに強い鎮痛剤を服用すると、副作用の影響が優位となりかえってQOLを下げてしまうため注意が必要です。
逆に、痛みが大きいときに弱い鎮痛剤を大量に服用しても、同様に副作用が生じるリスクが高まります。
以下では、痛みの大小によって使い分けるべき鎮痛剤について紹介します。
① 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とは、ロキソニンを代表とする抗炎症作用を有する薬剤を指します。
ロキソニンは解熱剤としても広く用いられている薬剤の一種です。
痛みが比較的軽いがんに対しては、NSAIDsが用いられます。
NSAIDsが持つ抗炎症効果・鎮痛効果によりがんの痛みを抑えられれば、QOLに繋がります。
しかし、NSAIDsは胃腸障害をはじめとした副作用のリスクがある点には注意が必要です。
副作用を抑えるために胃腸薬を併用するケースもあります。
服用については自己判断せず、必ず医師に相談のうえでおこなってください。
② オピオイド鎮痛薬
NSAIDsで痛みが緩和しない場合は、オピオイド鎮痛薬が用いられるケースがあります。
オピオイド鎮痛薬は、痛みを脳に伝える神経に作用する薬剤です。
神経そのものに作用するため、がんにより生じる強い痛みに対する高い効果が期待できます。
一方でオピオイド鎮痛薬は、服用初期において吐き気の副作用が生じる可能性があるため、制吐剤と併用されるケースが多いです。
なお、麻薬の一種であるモルヒネは、オピオイド鎮痛薬に分類されます。
モルヒネと聞くと危ないイメージを持つかもしれませんが、臨床で用いられるオピオイド鎮痛薬は医師の指示に従って使用すれば問題ありません。
ただし、医師の指示を超えた量のオピオイド鎮痛薬を服用した場合、中毒症状が生じる場合があります。
必ず医師に相談のうえ、服用してください。
3-4.漢方薬を補助的に用いる
末期がん患者のQOLを高めるうえでは、漢方薬を補助的に用いることも有効と考えられます。
がんに対する漢方薬の効果は、明確には解明されていません。
一方で、抗がん剤と漢方薬の併用によりがん治療に良い効果を示すという主張もあります。
漢方薬は身体を温める作用があるため、体内の免疫機能を高める効果が期待できます。
免疫細胞はがん細胞を直接攻撃するため、がんに良い効果を示す可能性は十分考えられるでしょう。
ただし、がん細胞に直接アプローチする作用は漢方薬にはありません。
あくまでも手術や抗がん剤といった手法をがん治療のメインとし、漢方薬は補助的に用いるようにしてください。
3-5.家族・医師・ソーシャルワーカーに相談する
末期がん患者がQOLを高めるには、一人で悩まず周りに相談することが必要不可欠です。
一人で思い悩むと不安や恐怖が増幅し、ネガティブな思考に陥ってしまいます。
こうした思考は精神的なダメージに繋がり、がん症状のさらなる悪化に繋がりQOLを低下させてしまいます。
現時点で末期がんであっても、QOL向上の取り組みによって苦痛のない生活を取り戻すことは可能です。
解決の手段やヒントをいち早く得て後悔しないためにも、ぜひ積極的に周りの家族や医師、ソーシャルワーカーに頼ってみてください。
4.まとめ:末期がん患者のQOL向上には早期の緩和ケアが重要
QOLを向上させてがんの苦痛を減らすポイントは、緩和ケアです。
治療法や食事面についてQOLを重視した選択が取れれば、末期がんでも自分らしい人生を送ることは可能です。
また、適切な対処法により身体的な痛みを軽減するだけでなく、社会的な不安に対するアドバイスを専門家から得ることも大切です。
まずは家族や医師と話し合いながら、早期の緩和ケアに取り組んでみてください。