
がんに対して適切にアプローチするためには、がんの特徴や薬の役割を把握しておくことが重要です。がんの薬物療法には、一般的な抗がん剤治療のほかに、ホルモン療法、分子標的療法、免疫療法などがあります。この記事では、代表的な4つの薬物療法のメリット・デメリットや、がんの薬における代表的な副作用の対処法について解説します。がんの薬について正しく理解し、安心して治療を受けられるように、ぜひ最後までご覧ください。
1.がん細胞の特徴と治療薬の役割とは
がんの薬物療法について正しく理解するためには、がん細胞が悪影響を及ぼす仕組みから知識を深めることが重要です。以下では、がん細胞の特徴とがん治療薬の役割について解説します。
1-1.がん細胞は無限に増殖して正常組織を圧迫する
正常細胞とがん細胞の決定的な違いは、細胞の増殖挙動です。がん細胞は正常細胞と異なり、無限に増殖するという性質があるため、周囲の正常組織を圧迫します。やがて臓器などの重要組織にもダメージを与え、結果として様々な症状や機能障害を引き起こします。したがって、がんの進行を食い止めるには、がん細胞の増殖を抑えることが重要です。
1-2.がんの薬によってがん細胞の増殖を抑える効果が期待できる
がん細胞は、健康な人の体内にも一定数存在します。そして、通常は体内の免疫細胞の働きによってがん細胞は死滅します。しかし、加齢などにより免疫細胞の働きが弱まると、生き残ったがん細胞が増殖し、いわゆる「がん化」に至ります。そこで、がん細胞の増殖を抑制する役割を果たすのが、がん治療薬です。がん治療薬は、がん細胞を直接攻撃したり、がん細胞の増殖機構を抑制したりすることで、がん細胞の死滅を促します。がん細胞の増殖を抑制できれば、再び健康的な生活を取り戻すことができるでしょう。
2.がんの薬物療法は薬のタイプによって4つに分類される
がん細胞の増殖を抑制する薬には、メカニズムの違いによっていくつかのタイプが存在します。以下に、がんの薬物療法で用いる代表的な薬のタイプを4つ示します。
- ・抗がん剤(化学療法)
- ・ホルモン治療薬
- ・分子標的薬
- ・免疫療法薬
現在は、従来の抗がん剤治療だけでなく、分子標的療法や免疫療法といった治療も可能です。このように、時代の流れにともない、がんの薬物治療は急速に発展しています。しかし、安心してがん治療に臨むには、それぞれの薬物療法に対する正しい理解が必須です。以下では、各薬物療法の特徴やメリット・デメリットについて紹介します。
2-1.全身のがんに適用可能|抗がん剤(化学療法)
化学療法とは、がん細胞に直接ダメージを与える治療法を指し、化学療法に用いる薬のことを「抗がん剤」と呼びます。薬物療法の中でも、抗がん剤によるがん治療は比較的長い歴史があるため、治療実績データも比較的豊富です。抗がん剤は、薬物が血中を巡ることで全身のがん細胞を効率よく死滅させられる点がメリットです。一方で、抗がん剤はがん細胞だけでなく正常細胞に対しても同様にダメージを与えるため、副作用のリスクが比較的大きいといえます。特に、「抗がん剤」と聞くと、あまり良いイメージをもたない患者さんも多いでしょう。しかし、近年では副作用を抑制する薬も開発されたため、患者さんへの負担は少なくなり、従来よりも治療への心理的ハードルは下がっています。
2-2.乳がんなどに対して効果が期待|ホルモン治療薬
乳がんや子宮体がん・前立腺がんの場合、体内で分泌される性ホルモンを栄養源としてがん細胞が増殖します。ホルモン治療薬は、性ホルモンの量や作用に関与することで、がん細胞の増殖を抑制するという原理です。乳がんのホルモン療法に関する研究によると、ホルモン療法薬によって再発リスクを約50%低下させる効果が得られています。
(出典:Davies, C., et al. “Relevance of Breast Cancer Hormone Receptors and Other Factors to the Efficacy of Adjuvant Tamoxifen: Patient-Level Meta-Analysis of Randomised Trials.” Lancet, vol. 378, no. 9793, Elsevier, 2011, pp. 771–84.)
ホルモン治療薬の場合、抗がん剤ほどの副作用は見られないものの、性器出血や性欲減退といった症状があらわれる可能性があります。
2-3.がん細胞をピンポイントで狙い撃ち|分子標的薬
がん細胞には、正常細胞にはない特有の目印(分子)が存在します。その分子をターゲットとしてがん治療を行う薬のことを、分子標的薬といいます。がん細胞を選択的に攻撃できるため、正常細胞に対するダメージが少なく、従来の抗がん剤治療よりも副作用が小さい点がメリットです。しかし、分子標的薬のみでがん細胞を完全に死滅させることは難しいため、他の治療法と併用するのが一般的です。
2-4.がんに負けない本来の免疫力を回復|免疫療法薬
免疫療法は、今回紹介するがん治療法の中では最新の薬物療法です。がん細胞が増殖すると、免疫細胞の働きが抑制されることが知られています。そこで、免疫療法薬を用いることにより、患者さんがもつ本来の免疫力を引き出すことで、がん細胞の増殖を抑える効果が期待できます。免疫療法薬としては、2018年に京都大学の本庶佑名誉教授がノーベル医学・生理学賞を受賞した研究に関連する「オプジーボ」が有名です。オプジーボの効果が認められる確率は25%前後ですが、一度効果があらわれれば持続しやすいのが特徴です。一方で、免疫療法は最新のがん治療法であるため、治療実績データが他の治療法よりも少ない点はデメリットといえます。また、免疫療法は先進医療のため自由診療扱いとなり、治療費が患者さんの全額負担となる点は注意が必要です。
3.漢方薬とがん治療薬の併用で相乗効果が期待できる
漢方薬のみでがんを完全に治すのは難しいのが事実です。しかし、漢方薬と他の薬物療法と併用することで相乗効果が期待できます。以下では、漢方薬のがん治療に対する効果と正しい活用法について解説します。
3-1.温熱効果により薬物療法の増強効果が期待できる
がん細胞は、正常細胞よりも熱に弱いという特性があります。正常な細胞は効率的に熱を逃がす機構が備わっているのに対し、がん細胞は熱を蓄積しやすいためです。この特性を利用し、熱でがんを治療する温熱療法が知られています。漢方薬も体温を高める温熱効果があるため、温熱療法と類似の作用が期待でき、薬物療法との相乗効果が狙えます。
3-2.がんの薬物治療における副作用を低減できる可能性がある
漢方薬は、がん治療の副作用を低減する効果が期待できます。特に、倦怠感や疲労感といった副作用を感じる場合には、補気剤と呼ばれる漢方薬が役立ちます。倦怠感・食欲不振・無気力を感じた際は、四君子湯という補気剤を検討してみてください。
3-3.免疫力を高めることでがんに対抗できる体づくりができる
漢方薬により体力や気力を増大させることで、がん細胞に対抗するための免疫力を高める効果も期待できます。注意点としては、漢方薬によるがん治療のみを行い免疫力を高めてしまうと、がん細胞の増殖をかえって促進させる恐れがある点です。漢方薬によるがん治療は、その他の薬物治療と併用するのが基本であると理解しておきましょう。
3-4.がんの薬物治療による精神不安を緩和できる
がん治療の患者さんは、治療の過程で強い不安を感じ、様々な身体症状を併発するケースがあります。その際は、精神不安を緩和させる漢方薬が役立つでしょう。例えば、加味帰脾湯と呼ばれる漢方薬は、精神的な障害による不眠や食欲低下に有効とされるため、落ち込みや内向傾向が強い場合に用いられます。一方で、加味逍遥散と呼ばれる漢方薬は、情緒不安定やイライラを軽減するのに有効とされるため、感情的になり人や物に当たるといった外向傾向が強い場合に用いられます。
4.がんの薬の副作用に気をつけましょう
がん治療を行ううえで、多くの患者さんが不安に感じるのは、薬の副作用に関してでしょう。例えば、抗がん剤の使用により毛髪の正常細胞が強くダメージを受けた場合、毛髪の脱毛の副作用が生じる可能性があります。そこで、がんの薬とあわせて副作用を抑制する薬を服用することにより患者さんの負担を減らす「支持療法」という手法があります。薬の副作用は、治療期間中の一時的なものであるため、正しい支持療法を受けながらがん治療を進めていくのがおすすめです。以下では、がんの薬物療法で起こりうる代表的な副作用とその対処法について解説します。
4-1.脱毛
抗がん剤により毛根細胞がダメージを受けた場合、毛髪が抜け落ちるという副作用が生じる可能性があります。一般的には、抗がん剤治療を開始してから2〜3週間後に脱毛が見られるケースが多く、がん治療の進行期間中は症状が続きます。脱毛の場合、事前に対策できる支持療法はありませんが、治療前に髪を短めにしておいたり、かつらを用意したりすることで、それほど人の目も気にならないはずです。抜け落ちた毛が目立たないよう、黒色など濃い色の服装を準備しておくこともポイントです。また、脱毛時は頭皮に痛みやかゆみが生じる場合がありますが、丁寧に洗髪することで症状を緩和できます。洗髪の際は、頭皮にダメージを与えないよう、爪を短く切り優しくマッサージするように洗いましょう。治療期間が終了してから3〜6ヶ月後には、再び発毛が見られるケースが多いです。
4-2.吐き気
がん治療の副作用として、吐き気が生じるケースもあり、男性よりも女性に多く見られます。特に、がん治療開始後24時間以内に起きる吐き気を「急性嘔吐」と呼びます。急性嘔吐を抑えるための支持療法は、がん治療を受ける前に制吐剤の点滴を受けることです。また、がん治療開始後24時間〜48時間後に発生し、2日〜5日間ほど続く吐き気を「遅発性嘔吐」と呼びます。遅発性嘔吐を抑えるための支持療法は、適宜、錠剤の制吐剤を服用することです。その他、がん治療による精神不安によって吐き気が生じる場合には、抗不安薬の服用で対応するケースもあります。吐き気の副作用を抑えるコツは、重い食事を摂りすぎないことです。特に、治療の前日は軽めの食事に抑えるよう心がけましょう。
4-3.貧血
血液を作る造血細胞がダメージを受けた場合、赤血球の数が減少することで、貧血の副作用を引き起こすケースがあります。しかし、多くの場合は軽い貧血で済み、めまいやふらつきといった症状が出ることはまれなので、過度に心配する必要はありません。貧血の副作用を極力抑えるためにも、急激に体を起こしたり、無理して走ったりすることは避けましょう。万が一、めまいやふらつきが生じた場合は、決して無理せずただちに医師へ相談してください。
4-4.その他
その他、以下のような副作用が挙げられます。
- ・感染症
- ・便秘
- ・下痢
- ・出血
- ・倦怠感
- ・口内炎
- ・血管外漏出
副作用の症状や強さは、がん治療に用いる薬の種類や個人差によって左右されます。がん治療を検討する際には、事前に医師と相談し、患者さん本人だけでなく家族も含め、メリットと副作用をしっかりと把握しておくことが大切です。
5.まとめ:がんの薬物療法を正しく理解して納得のいく治療法を選択しよう
今回は、がんの薬物治療4タイプと、治療効果を増強する漢方薬の活用法について紹介しましたが、がん治療において「この治療薬を使うべき」という正解はありません。がんの薬物療法に関する基礎知識を理解したうえで医師の説明をしっかり受け、最終的に患者さん本人が納得のいく選択をすることが大切です。特に、副作用については、事前に症状を把握しておくことで患者さんの心の負担は軽くなります。患者さんが安心してがん治療を受けるためにも、薬物療法に対する理解を深めていきましょう。また、漢方薬は今回紹介した薬物療法との相乗効果が期待できるため、ぜひ積極的に活用を検討してみてください。
がん患者と家族の向き合い方。不安に寄り添って自分のものにする