すべての医薬品には、副作用のリスクがあります。がん治療で使用される抗がん剤についてもさまざまな種類の副作用が報告され、患者の負担となっています。抗がん剤による治療は、患者にとっても周りの家族にとっても大変なものであるため副作用対策はがん治療においても非常に重要です。
当記事では、がん治療における副作用と対策、注意点、患者の負担を減らすための取り組みなどを解説します。
1. 抗がん剤の種類
抗がん剤は、外科手術や放射線療法と並んでがん治療における中心的な治療法の一つです。外科手術や放射線治療は、がん組織を直接的に除去、攻撃することで治療効果を発揮しますが、薬物療法は全身的に働きかける特徴があります。全身に作用することから、外科手術後にがんの転移を予防する目的で抗がん剤を使用することもあります。
がん治療における薬物療法は、薬剤の特徴によって以下の3種類に分類され、がんの種類によって使い分けられています。
化学療法
化学物質や抗生物質などを利用してがん細胞に対して直接攻撃する治療法です。薬物療法の中心的な存在ですが、活発に増殖する細胞に対して効果を発揮するため、がん細胞以外の健康な細胞に対しても攻撃するというデメリットがあります。健康的な細胞への攻撃は、脱毛や吐き気など、さまざまな副作用が起きる要因にもなっています。
ホルモン療法
乳がんや前立腺がん、子宮体がんなど一部のがんは、がん細胞の増殖に男性ホルモンや女性ホルモンなどの性ホルモンを必要とするものがあります。ホルモン療法は、がん細胞のエネルギーとなる性ホルモンを抑制することで、がんの増殖を抑制します。ホルモン療法は、がん細胞に直接作用しないため、化学療法や放射線治療と併用して行われることが多い治療法です。
性ホルモンを抑制することから更年期障害と似た症状があり、ほてりやむくみ、体重が増えるなど副作用があらわれることがあります。
分子標的療法
タンパク質や遺伝子などがん細胞の増殖に必要な物質の働きを抑制することで、がん細胞のみに働きかける抗がん剤です。従来の化学療法で使用される抗がん剤に比べると、健康な細胞への影響が少ないため副作用のリスクが低いという特徴があります。
しかし、副作用として発熱や吐き気、だるさ、発疹などのアレルギー症状がみられることがあるので医師の説明をしっかり聞いたほうが良いでしょう。
2. 抗がん剤治療には副作用のリスクがある
がん治療を行う過程で副作用のリスクはつきものです。抗がん剤の種類によって副作用の種類は異なり、個人差もあります。がん治療を受ける場合、副作用についての説明を医師から受けて納得されることが治療継続においても大切です。
がんは通院治療が増えている
近年では、がんの治療薬の進歩が進み、医療機関に入院してから治療するのではなく通院での治療も増えてきました。仕事や家事などの日常生活を送りながらがん治療をする場合、副作用への対策も必要になります。身体的、精神的にも負担を減らして日常生活を妨げない治療が求められています。
抗がん剤で起きる副作用は対策できる
抗がん剤ではさまざまな副作用が起こる可能性があります。抗がん剤の副作用によっては治療の継続を断念することもあり、患者の生存率にも影響するので対策をしていく必要があります。
近年では、副作用に対して行われる「支持療法」や見た目の変化に対する「アピアランスケア」など、患者の負担を減らす取り組みが多くの医療機関で導入されています。
3. 抗がん剤による副作用と対策法
抗がん剤の副作用は使用される薬剤によってさまざまあります。副作用の強さによっては治療を中断したり、薬剤量を調節、中止したりすることが必要になることもあります。がん治療を継続するためにも副作用への対処法は診療ガイドラインでも整備されるようになっています。
吐き気・嘔吐
多くの抗がん剤は、吐き気や嘔吐があらわれます。吐き気や嘔吐は、食欲不振にもつながるため体重減少や栄養不足、筋力の低下などを引き起こし、日常生活にも影響するので対策が必要です。抗がん剤による吐き気、嘔吐には薬剤で抑える方法があり、ガイドラインも作られています。
下痢・便秘
下痢や便秘も多くの抗がん剤にみられる副作用の一つです。下痢が続く場合、水分や栄養が不足する可能性もあるので場合によっては点滴によって補う必要があります。普段から水分をしっかり摂ることで便秘の予防にもなり、脱水のリスクを下げることにもつながります。また、事前に便秘薬や下痢止めを使用することで対策ができます。
脱毛
抗がん剤によっては、髪の毛や眉毛などの体毛が抜け落ちることがあります。抗がん剤を使用してすぐに脱毛が始まることはなく、治療を開始してから2〜3週間後に脱毛が始まります。
脱毛は見た目の変化が大きく、患者のメンタル面での影響があるためケアが必要です。近年では、脱毛に対するケアも普及しており、ウィッグや帽子などでも対策できます。
疲労感
だるさや疲れやすさがあらわれることがあります。疲労感によって仕事や家庭のことにも影響する可能性があるので注意が必要です。原因としてがん治療による消耗と不眠、精神的な負担があると考えられています。
原因がはっきりしない場合は、体の変化を理解し、無理をしない生活を心がけることが重要です。
皮膚障害
抗がん剤の使用によって皮膚を作る細胞にも影響が起きることで皮膚の着色や肌荒れ、爪の形状変化などさまざまな皮膚症状があらわれることがあります。
また、皮膚細胞への影響以外にも抗がん剤に対するアレルギー症状で皮膚症状があらわれることもあり、抗アレルギー薬で対応する場合もあります。
口内炎
口内炎は、口内の炎症によって痛みが生じるので食事が摂りづらくなることがあります。口内炎があらわれる前に予防的にうがいをし、口腔内を清潔にすることで対策できます。
感染症
抗がん剤の使用によって骨髄に問題が生じると白血球や赤血球など血液の構成成分が作られなくなります。白血球の減少による免疫機能の低下が起きるので感染対策が必要です。白血球が正常に作られるようにする薬剤を使用したり、輸血をしたりすることで対策する場合もあります。
がんの治療をする場合、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなる可能性があるので、手洗いとうがいを普段からしっかり行っていくことが大切です。
妊孕性
抗がん剤のなかには、催奇形成と呼ばれる胎児の生育を阻害する働きをもつ薬剤も存在するため、男女ともに避妊が必要になる場合があります。また、ホルモン療法など性ホルモンに影響する薬剤では、妊娠能力が低下する可能性もあるので注意が必要です。
しかし、多くの場合、治療が終了してからある程度の期間が経過することで子どもを作ることも可能です。妊娠を希望される場合は、主治医と相談したほうが良いでしょう。
4. がん治療における「支持療法」
がん治療では、副作用のリスクを下げたり、患者の負担を軽減したりするために支持療法が並行して行われることが多くなっています。がん治療は、時間がかかることも多く、患者に負担がかかることもあります。そのため、がん治療において支持療法の存在は重要です。
支持療法によって患者の負担が軽減できる
がん治療で行われる支持療法は、さまざまなものが存在します。抗がん剤の身体的な副作用を軽減することで身体的な負担を減らすもの以外にも、治療や生活への不安などに対するメンタルケアなども支持療法として注目されています。
薬剤を使用した支持療法
抗がん剤の副作用として多くみられる吐き気などに対して薬剤を使用した制吐療法が行われます。
その他にも、白血球減少による免疫力の低下に対しては感染症を防ぐために抗生剤が使用されたり、白血球を増やす効果を期待してG-CSF製剤(顆粒球コロニー形成刺激因子製剤)を使用したりすることがあります。
輸血
骨髄では、赤血球や白血球、血小板などの血液が作られるため、抗がん剤によって障害されると貧血になったり、感染症にかかりやすくなったりすることがあります。抗がん剤治療によって血液が不足した場合、輸血によって補うことがあります。
リハビリテーション
がんやがんの治療によって低下した身体機能を維持、向上させるためにリハビリテーションが行われることがあります。がん治療では、体力の消耗や栄養不足から身体機能が低下し、倦怠感やだるさ、筋力・体力の低下などがあらわれます。リハビリによって身体機能を維持することで、抗がん剤の副作用である倦怠感などを軽減することも可能です。
カウンセリング
がんの治療は、患者の精神にも大きな負担をかけます。患者のなかには、「なぜ、自分ががんになってしまったのか」と怒りを感じたり、「自分の生活習慣が悪かったのではないか」と自分を責めたりすることもあります。
がん患者が強い不安から、不眠や食欲不振、抑うつなどが起きることも珍しいことではありません。
そのため、がん治療におけるメンタルケアは、日常生活を維持するためにも重要です。がん治療と並行してカウンセリングや心療内科での治療も検討してみるのも良いでしょう。
見た目の変化にはアピアランスケア
抗がん剤の使用による脱毛や皮膚の変化、手術による傷跡、乳房の喪失などがん治療には、見た目が大きく変化する副作用が存在します。見た目が変化したことによって人の目が気になったり、社会との関わりに苦痛を感じたりすることで心理的にも負担を感じやすくなることがあるので対策が必要です。
アピアランスケアは、医学的、整容的なサポートによって見た目の変化をカバーしたり、心理的支援を通して患者の精神的負担の軽減が期待できます。脱毛に対してウィッグや帽子などでカモフラージュ、爪や肌のケア、人工乳房などがアピランスケアに該当しますが、自治体によっては費用助成を行っているところもあるので気になる人は相談してみてください。
5. サプリメントや市販薬で副作用が強く出ることもある
複数の医薬品を使用する場合、飲み合わせに問題があるものが存在します。また、サプリメントや健康食品のなかにも薬の作用に影響して副作用が強く出るものもあるので注意が必要です。
過去には、抗がん剤を使用した治療中に健康食品や市販薬を服用したことによる死亡事故も発生しているので、健康食品やサプリメント、市販薬を使用する際には医師や薬剤師に相談してください。
サプリメント
抗がん剤のなかには、副作用のリスクを軽減する目的でビタミンやミネラルが処方されることがありますが、ビタミンBの一種である葉酸は、フルオロウラシルやカペシタビンの排泄を遅らせる働きがあるため副作用のリスクを高める可能性があります。
サプリメントなどの服用によって抗がん剤の治療効果が低下したり、副作用を強めたりすることもあるので自己判断での服用は危険です。
健康食品
がん治療に影響する健康食品はさまざまに存在し、副作用を増強させる働き以外にがんの再発に関係するものも存在するため注意が必要です。
アガリクスというブラジル原産のキノコを使用した健康食品が、「抗がん効果がある」「免疫力を高める」などと言われ、広く国内に流通しています。しかし、アガリクスによるアレルギー性肝障害が報告され、抗がん剤による薬物療法の導入が困難となったことで死亡したケースも報告されました。
また、メシマコブを使用した健康食品を服用したことによる肝障害も報告されているので、健康食品によってがん治療の開始が遅れる可能性もあります。
漢方薬
近年では、漢方薬の効果が見直されるようになったため、抗がん剤のつらい症状に対しても漢方薬が使用されることが増えてきました。進行胃がんに対する化学療法の食欲不振に対して「六君子湯」、非小細胞肺がん患者の化学療法における下痢症状に「半夏寫心湯」、手足の痺れについても「牛車腎気丸」が使用されています。
漢方薬は、医療用医薬品として処方されることもありますが、市販薬としてもドラッグストアなどで販売されています。通常の医薬品に比べると副作用が少ない傾向がありますが、重篤な副作用が起きる可能性もあるので注意が必要です。漢方薬の7割に含まれる甘草は、偽アルドステロン症と呼ばれる副作用を起こすことが知られ、不整脈や脱力感、むくみがあらわれます。また、黄芩による間質性肺炎、山梔子による腸管膜静脈硬化症などのリスクがあります。
6. まとめ:抗がん剤の副作用対策は早めにすることが重要
抗がん剤の副作用でよくみられる吐き気や嘔吐などは事前に支持療法を受けることで症状を抑えられます。一部の抗がん剤では、脱毛や皮膚症状など見た目の変化が伴うことがありますが、ウィッグや帽子、肌のケアなどを行うことで対策することも可能です。
また、健康食品やサプリメント、市販薬には、抗がん剤の治療効果を弱めたり、副作用を増強するものも存在するので、処方薬以外にも健康食品などの使用を考えている場合は、医師や薬剤師に相談してください。
がん治療における副作用について不安を感じていたり、悩んでいる人は一人で抱え込まず主治医などに相談したほうが良いでしょう。
がんの薬物療法4タイプとは?副作用や漢方薬の活用についても紹介
●参考文献
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・抗がん剤治療(化学療法)はどのような治療ですか,特定非営利活動法人日本肺癌学会
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