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がんの転移とは?予防としての免疫機能の強化についても紹介


日本人のなかで一生のうちにがんと診断される人は、2人に1人です(男性65.5%、女性51.2%)。この記事に興味をもってくださったあなたも、もしかしたらがんになった1人であり、転移について不安に思っているのかもしれません。転移したがんは完治しにくいという話を聞いたことがある人も多いでしょう。
この記事では、がんが転移するとはどのようなことなのか、転移したがんが完治しにくい理由、そして転移を予防するために何ができるのかを解説しています。これらについて興味のある人は、ぜひ最後までお読みください。

1. がんの転移の種類


転移とは、がん細胞が最初に発生した原発巣から、リンパ管や血管に入り、その流れに乗ったがん細胞が別の器官や臓器に出現し、そこで増えることをいいます。
良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)の最も基本的な違いは、転移するか否かです。
転移は①リンパ行性転移②血行性転移③播種(はしゅ)の3つの種類に分けられます。
それぞれがどのようなものか見ていきましょう。


出典:国立がん研究センターがん情報サービス

リンパ行性転移

がん細胞がリンパの流れと共に、リンパ節に到達し、病巣を形成する転移のことをいいます。

血行性転移

がん細胞が血流に乗って、他の臓器に到達し、病巣を作る転移のことをいいます。肺や肝臓、骨、脳など血流の流れが多いところへ転移します。

播種

胸腔や腹腔は、それぞれ胸膜や腹膜に囲まれた空間です。基本的に隔てるものがありません。そこにがん細胞が侵入すると、種をまいたように多くの播種による病巣が作られることになります。そのため、胸腔や腹腔などの体腔に接した臓器のがんでは、播種がおこることがあります。
播種によってできた病巣は、小さいものであることが多く、画像診断では判明せずに、手術時に明らかになることもあります。
胸水や腹水がある場合は、それらを採取して細胞診を行うことで、播種があるかどうかを診断します。

浸潤と転移の違い

がんがどのように増えていくかは、隣接する臓器への直接浸潤と、離れた部位への転移に大きく分けられます。
浸潤とは、がん細胞が直接周囲の臓器や組織に広がることです。転移でも、最初に浸潤し、その後血管やリンパ管にたどり着き、転移していきます。
湿潤の具体例は以下のとおりです。

・食道がんから気管への浸潤
・肺がんから心外膜への浸潤
・膵がんから神経叢への浸潤
・大腸がんから膀胱への浸潤

2. がんの転移が起こる時期と見つかり方


がんが転移することについて不安になったときに気になることは、がんの転移がいつ起こるのか、どうやって転移を見つければよいのかということではないでしょうか。
そこで、次にがんの転移が起こるのはいつかと、どのように転移が見つかるかについて解説します。

がんの転移が起こるのはいつか

がんが発生してから転移が起こるまでの期間については、人によりさまざまです。がんの悪性度や種類によって異なります。原発巣が大きな腫瘍になっていても、転移が起こらない場合もあります。
一方で、原発巣が小さくても、さまざまな臓器に転移が起こることもよく見られます。たとえば、肺小細胞がんでは、原発巣が1cmくらいでも、リンパ節や骨、肝臓、脳、副腎への転移が多数見つかることは珍しくはありません。

がんの転移の見つけ方

転移したがんが小さいうちは、症状が現れないことがほとんどです。 
一方で、がんの種類によっては原発巣の症状よりも、転移による症状のほうが先に現れ、それによりがんに気が付くことがあります。
たとえば、皮膚に転移したときは、皮膚に赤い硬い塊ができ、それに患者さん自身が気づいて病院を受診して、転移が見つかることもあります。
転移を診断する方法は、以下のものがあげられます。

・脳転移:脳MRI(核磁気共鳴画像法)
・肺転移・肝転移・副腎転移・リンパ節転移など:胸部・腹部のCT(コンピュータ断層検査)
・骨転移:骨シンチグラフィー検査
・腹部:超音波検査

※最近ではPET(陽電子放出断層撮影)で、脳以外の臓器の転移を1度の検査で調べられます。

転移を診断する検査は、以下のタイミングで行います。

・がんと診断されたとき
・がんの治療の前後
・治療が終了して半年、1年、2年といった節目

症状がなくても、急に血液や尿の中に含まれる腫瘍マーカー(がんによって特徴的に作られるタンパク質などの物質)が上昇してきた場合も、転移の可能性を疑って、検査を行います。

3. 転移したがんはなぜ完治しにくいのか

移したがんは完治しにくいことを聞いたことがある人は多いかもしれません。では、なぜ転移したがんは治りにくいのでしょうか。
がん治療の目的には、「がんを治す」「がんの進行を抑える」「がんによる症状を緩和する」ことが挙げられます。
原発巣とその近くへの少数の転移であれば、手術などの治療が可能です。そのため、「がんを治す」ことが可能になります。

しかしながら、一つの臓器に転移が起こったということは、全身のさまざまな場所に、検査では見つけることのできない小さな転移が起こっていると考えられます。その場合、手術や局所の治療ではすべてのがん細胞を取り除くことが難しくなり、薬物療法(抗がん剤治療)による全身治療が行われる場合が多くなります。抗がん剤治療では、一時的にがんが縮小することはありますが、完全に無くなることはなかなかありません。

そのため、がんが全身に転移した際、多くの場合、がんの進行を抑えたり、がんによる症状を緩和したりすることが治療の目的になります。
完治できなくても治療は継続できますが、がんの場所や大きさ、これまでの治療の効果、体調、気持ち、がんにより起こる症状に対して、どのようなことができるのかを考えていくことになります。具体的には、治療による後遺症や副作用ができるだけ少ない治療法を選ぶなど、できる限り身体と心の両方に優しい治療やケアを選択することになります。
転移したがんは完治しにくいのが現状です。また、全身のどこに転移するかわかりません。したがって、定期的に全身の検査を行い、転移を早期に見つけることが大切です。早く見つければ選択できる治療も多くなります。

4. 免疫機能の強化による予防


がんが転移してしまうと完治が難しくなります。そのため、転移する前に予防として免疫機能を強化することが重要となります。

免疫とがん

人の身体(自己)にとっての異物(がん細胞など)を「非自己」と認識して排除するシステムのことを免疫といいます。
免疫では、血液中の白血球などの免疫細胞が大切な役割を果たしています。このうちTリンパ球には、がん細胞を攻撃するという特徴があり、免疫療法において非常に重要です。
しかし、Tリンパ球の力が弱くなったり、がん細胞がTリンパ球の力を抑えていると、免疫細胞ががんを除けずに、がんが進行してしまうことがあります。

がんの免疫療法とは

がんの免疫治療は、以下の3つに分けられます。

・治療の効果が証明されている免疫療法
・医療の研究段階で行われている免疫療法
・自由診療として行われている免疫療法

それぞれについて、どのようなものか解説します。

治療の効果が証明さている免疫療法

治療の効果が証明されている免疫療法の大部分は、がん細胞がTリンパ球の力を抑えることを防ぐ方法、またはTリンパ球ががん細胞を攻撃する力を高める方法です。
大きな規模で行われた臨床試験などにより、科学的に検証され、治療効果や安全性が明らかになった免疫療法には①免疫チェックポイント阻害薬を投与する方法と②その他の方法があります。
治療の効果が証明されている免疫療法の一部は、公的医療保険の保険診療で治療を行えます。
①免疫チェックポイント阻害薬を用いる方法では、Tリンパ球の力をがん細胞が抑えてしまうことを防ぎます。
この方法では、患者さん自身の免疫反応を用いているため、効果に関しては個人差が大きいです。加えて、効果が出るまで数か月を必要とします。一方で、うまく効果があった例では、効果が長時間持続することがわかっています。
また、②その他の方法は、免疫の力を強くすることで、がん細胞への攻撃力を強めます。これをエフェクターT細胞療法といいます。
この方法では、まず、患者自身のTリンパ球を体外に取り出します。そして、Tリンパ球にがん細胞を見分ける遺伝子を取り入れて増やし、その後、再び体内に戻します。これにより、Tリンパ球のがん細胞を攻撃する力は高まります。

免疫療法は、化学療法による副作用(脱毛や吐き気など)は少ないことがわかっています。しかし、免疫療法は自分の体内の免疫反応を活性化させたことに関連する副作用が起こる場合があり、その場合は、全身にいろいろな症状が起こる可能性があります。
具体的には以下のとおりです。

・内分泌・代謝障害:全身倦怠感・食欲低下・頭痛など
・肺障害:呼吸困難など
・肝・膵障害:アミラーゼ・リパーゼ上昇など
・消化管障害:下痢・悪心・嘔吐・頭痛など
・皮膚障害:丘疹・紅斑など
・眼障害:ドライアイなど
・心血管系障害:呼吸困難・動機など
・腎障害:無尿・浮腫など
・神経・関節・筋障害:めまい・けいれんなど


多くの副作用は治療中に発症しますが、まれに治療が終了してから数週間や数か月後に発症する場合もあります。また、個人差があり、どのような症状がでるかはあらかじめ予測がつかないため、免疫療法を行うときは、治療する医師とよく相談して行うことが大切です。

免疫療法を受ける前に、医師に副作用などについて質問し、その対応についてどうすればよいかよく聞いておきましょう。また、副作用の症状を事前に知ることで、自分の体調の変化に気を配り、いつもと違うなと思うことがあれば、医師や薬剤師、看護師にすぐに相談することが肝心です。

医療の研究段階で行われる免疫療法

免疫療法は、現在、研究開発が進められている治療法です。そのため、安全性や治療効果を確かめるために、臨床試験や治験として行われることもあります。この種類の免疫療法を受ける場合は、緊急時に対応してくれる医療機関であることを確認することが重要です。

自由診療で行われる免疫療法

自由診療で行われる免疫療法は、治療効果や安全性が証明されておらず、保険診療の対象となっていません。そのため、安全性・治療効果・費用について慎重に確認することが必要です。

漢方薬による免疫機能の強化

漢方薬とは、古代中国の医術から生まれ、主に草の根や木の皮など数種類の生薬を混合して作られるものです。
漢方薬の中には、高分子化合物の多糖体という物質があります。この物質が、血液中の自然免疫を司る細胞の一種であるマクロファージの異物排除能力を上げる、または抗体産生に関わることが報告されています。つまり、高分子化合物である多糖体は、免疫を全体的に底上げする機能を持つのです。
具体的には、小柴胡湯(しょうさいことう)を中心とする柴胡剤(さいこざい)や黄連解毒湯(おうれんげどくとう)など、10種類近い方剤で、免疫を全体的に底上げする機能をもつことが証明されました。
一方で、漢方薬は慢性的な疾患に有効であり、さまざまな原料を組み合わせることで、多様な効能が得られます。がん治療においては、免疫力強化以外の目的でも漢方薬が用いられることがあります。その場合は抗腫瘍効果や副作用軽減作用のある漢方薬を組み合わせて使います。
漢方医学によるがん治療については、こちらの記事をご覧ください。

5. まとめ


漢方医学は身体のバランスを重視し、病気の予防や体質改善に有効です。手段として、鍼灸治療や漢方治療などが用いられており、本記事ではこの漢方治療について解説してきました。
漢方薬は慢性的な疾患や体質に有効であり、多くの原料を組み合わせることで、様々な効能が得られます。がん治療では、抗腫瘍効果や副作用軽減作用のある漢方薬を組み合わせています。
以上のように漢方医学はがん治療のもう一つの選択肢になりえます。ただし、西洋医学だけに固執してはいけないように、漢方医学だけにも固執をしてはいけません。西洋医学と東洋医学をうまく組み合わせることで、大きな効果を得ることができるので、柔軟に考えていく必要があります。
そして、漢方医学を受けたいときは、信頼のできる病院を受診しましょう。
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