原因や特徴・初期症状について

肝臓がんの基本情報

肝臓がんとは

肝臓がんは初期段階で自覚できる特有な症状がほとんどありません。自覚症状が現れたときはかなり進行しているため、とても治癒が困難ながんのひとつとされています。

重さ800グラム~1400グラムと、すべての臓器の中で最大の肝臓がんには様々ながんがありますが、日本の成人の場合、肝臓自体に生じた原発性肝臓がんの約90%は「肝細胞がん」です。

肝細胞がんとは、血液の濾過を行う肝臓の実質細胞ががん化するもので、肝臓に隣接する胃や胆嚢、横隔膜へと広がっていきます。また、肝静脈(肝臓から出ていく静脈)にがん細胞が入ることで他の部分に転移することや、がん病巣が破れてがん細胞が腹腔に広がることもあります。

原発性肝臓がんのうち全体の約5%は、肝臓内を通っている胆管の細胞ががん化する「胆管細胞がん(肝内胆管がん)」です。他にも、肝細胞と胆管細胞の「混合がん」や、未分化の細胞ががん化する「未分化がん」、「胆管嚢胞腺がん」「カルチノイド腫瘍」、「肝芽腫」などがあります。

他の部位で発生したがんが肝臓に転移して生じる「転移性肝臓がん」の多くは肝臓内の複数の場所で成長します(多発性)。

胃、小腸、大腸、すい臓、胆管、直腸など腹腔内の臓器を通過した血液は、すべて門脈から肝臓に入り、肝臓で濾過されます。他の部位に発生したがんが肝臓に転移しやすいのは、肝臓が血液を濾過するという役割を持つ臓器であることに関係しています。

肝臓がんの分類

原発性と他の臓器のがんが転移して発生する転移性の2種類があります。原発性はごく一部で、大半が転移性肝臓がんです。

1.原発性肝臓がん

肝臓自体に発生するがん。発生原因のほとんどが肝炎ウィルス感染。さまざまな種類があります。

A.肝細胞がん

血液の濾過を行う肝臓の実質細胞のがん化。原発性肝臓がんの約90%を占めます。

B.胆管細胞がん(肝内胆管がん)

肝臓内を通っている胆管の細胞のがん化。原発性肝臓がんの約5%を占めます。

C.その他

比較的まれながんとして、肝細胞と胆管細胞の「混合がん」、肝臓の細胞になりきっていない未分化の細胞ががん化する「未分化がん」、「胆管嚢胞腺がん」、ゆっくり進行する「カルチノイド腫瘍」、小児の肝臓がんである「肝芽腫(肝芽細胞腫)」などがあります。

2.転移性肝臓がん

他の臓器で発生したがんが肝臓に転移して生じる肝臓がん。胃、小腸、大腸、すい臓、胆管、直腸など腹腔内の臓器を通過した血液が肝臓に流れ込むことによります。

肝臓がんの原因

肝臓自体に最初に発生する原発性肝臓がんは、肝臓がん全体のごく一部で、大半は他の部位に生じたがんが肝臓に転移して成長した転移性肝臓がんです。

これは、肝臓が他の臓器を通過した血液を濾過する臓器であるため、がんが転移しやすい場所だということによります。他の部位で発生し血液に乗って移動するがん細胞は、最終的に肝臓の中の無数の小葉にひっかかって増殖をはじめます。

特に肝臓には門脈という太い血管があり胃や腸から静脈血が流れ込んでくるため、これらの部位に発生したがん細胞が血液に混じり門脈から肝臓に入って転移します。このように肝臓に転移し成長するがんはすべて転移性肝臓がん、又は続発性肝臓がんと呼ばれます。

一方、肝臓自体ががんを発生する原発性肝臓がんは比較的まれながんです。発症原因には、肝炎ウィルスへの感染、アルコール依存症、発がん性物質に肝臓組織がさらされることなどがあります。これらの原因によって肝臓の組織が傷ついて炎症を起こし壊死し始めた状態が肝炎です。

肝炎になると肝臓組織の損傷部分を修復するために、まわりから線維を伸ばしてとり囲みます。このように正常細胞の代わりに線維のかたまりが無数に生じると、肝臓の本来の働きが失われた状態(肝硬変)になります。

原発性肝臓がんの多くは、肝硬変の状態から発症します。日本の原発性肝臓がんの患者の発症原因の多くは、肝炎ウィルスに感染したことによるものとみられています。

肝臓がんの症状

原発性の肝臓がんを発症してもⅠ期~Ⅱ期にかけての段階では自覚できるほどの特有な症状はほとんどありません。がんが成長するにつれて肝臓の体積が大きくなるため、上腹部右側に膨張感や不快感が生じてきます。

原発性肝臓がんの大半を占める、肝炎や肝硬変から生じた肝臓がんの場合、初期の症状は、ほとんど肝炎や肝硬変によるものです。食欲不振、倦怠感、腹部の膨満感、便秘や下痢、腹痛、貧血などや、症状が重い場合は、黄疸、腹水、発熱、肝性昏睡などが起こることもあります。

肝硬変が進むと、クモ状血管腫(鎖骨の下あたりにクモが足を広げたような赤い模様が生じる)や、手掌赤斑(手のひらが紅くなる)、下半身のむくみ、腹部の静脈が浮き上がる、女性化乳房(男性でも乳房がふくらむ)などの症状が現れることがあります。

肝臓がん自体による症状としては、右の肩甲骨の痛み、みぞおちのしこり、腹部の腫れや痛み、強い脱力感、体重の減少などがあります。

肝臓がんの診断

まず、血液検査で腫瘍マーカー(肝臓のがん細胞が血液中に放出する特殊なたんぱく質)を調べ、X線撮影、CT、超音波診断などの画像診断を行います。これらによって確定診断ができない場合、がん細胞をとり出して生検を行います。

1.腫瘍マーカー

肝臓がんの場合に調べる腫瘍マーカーの代表的なものとして「AFP(アルファ胎児性たんぱく質)」があります。人が母体にいる胎児のときに体内で作り出す特殊なたんぱく質で、生後はすみやかに体内から消失するため成人には微量しか存在しませんが、肝臓がんが生じると、がん細胞がAFPを放出します。がんが成長するとAFP値も上昇し、治療などによりがんが縮小するとAFP値も低下します。他にも「PIVKA-2(異常プロトロンビン)」という腫瘍マーカーもあります。

とはいえ、がん細胞が作り出す腫瘍マーカーの量は個人差が大きく、陰性だからといって、がんが完全に消滅したとは必ずしもいえません。がんが非常に小さい状態では基準値以下になることもありえます。

さらに、がん以外の病気、たとえば肝炎や肝硬変などの場合でも、腫瘍マーカーが陽性になることがあります。このような診断の不確実性を補うために、画像診断や生検が行われます。

2.画像診断

X線撮影、CT(コンピューター断層撮像法)、超音波診断などで肝臓の内部を診断します。さらに、CTと血管造影を組み合わせたCTA(コンピューター断層動脈撮影)や、CTAP(頸動脈性門脈造影下コンピューター断層撮影)などの画像診断技術を用いることで、がん病巣の中を通る動脈血と門脈血の状態まで識別できるとされています。

3.生検

がんが疑われる部分から組織を採取し、顕微鏡下で観察することで、がんかどうかを判断します。局所麻酔を行いCTや超音波診断装置などで肝臓内部を確認しながら患部に特殊な注射針を刺して組織サンプルを吸い取る方法「針生検」や、先端に小さな光源やハサミ状の器具が付いた内視鏡(腹腔鏡)で、肝臓の内部を観察すると同時に組織サンプルを採取する方法などがあります。

4.外科的生検

外科手術により肝臓から検査用の組織サンプルを採取する方法です。針生検や内視鏡による生検よりもより多くの組織サンプルを正確に採取することができるため、より正確にがんの有無を確認することができます。さらにこの段階でがんが見つかった場合に、検査に続いてがんの摘出手術を行うことも可能です。

しかし、全身麻酔による大がかりな手術になるため、出血や感染症などの危険性もあり、手術後の痛みや苦痛など、患者の肉体的、精神的な負担も大きくなります。

5.血管造影

肝臓の中の血管を調べる診断法です。肝臓に血液を送り込んでいる血管にカテーテルを挿入してX線を通しにくい造影剤を注入します。その後、体の外からX線で肝臓を観察すると血管の分布状態が読みとれます。がんが原発性か転移性かを判断する情報を得たり、手術時の血管の扱いを決めたり術後の塞栓術に利用する血管を見定めます。

肝臓がんの病期(ステージ)

I期がんの大きさが2センチ以下で血管への浸潤はない。
II期以下のいずれかの場合。
・がんの大きさが2センチ以下で血管に浸潤している。
・がんの大きさは2センチ以上であるが、血管への浸潤はない。
・がんの大きさは2センチ以下であるが、右葉か左葉のどちらかに多発している。
III期がんが1ヵ所に限局しているが、大きさが2センチ以上で血管に浸潤している。がんが右葉か左葉のどちらかに限局しているが、大きさが2センチ以上で多発している。近くのリンパ節に転移している場合もある。
IV期a以下のいずれかの場合。
・がんが右葉と左葉の両方に多発していて、門脈や肝静脈の大分岐に浸潤している。
・がんが胆嚢以外の隣接する臓器に広がっている。
・肝がん破裂を起こしている。
IV期bがんが遠隔転移している。

肝臓がんの治療法

Ⅰ期・Ⅱ期

外科治療(部分切除、どちらかの葉切除)、がんに直接エタノールを注入する経皮的エタノール注入療法、肝動脈の血流血流を塞ぐ肝動脈塞栓術、局所化学療法。

Ⅲ期

肝動脈塞栓術、経皮的エタノール注入療法、局所化学療法、放射線治療などを単独、または併用で行う。肝移植の選択もある。切除手術は基本的に行わない。

Ⅳ期

対症療法、緩和療法。臨床試験も検討する。


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監修:孫 苓献(広州中医薬大学中医学(漢方医学)博士・アメリカ自然医学会(ANMA)自然医学医師・台湾大学萬華医院統合医療センター顧問医師)