原因や特徴・初期症状について
脳腫瘍の基本情報
脳腫瘍とは
脳腫瘍は一般的に脳のがんと受け止められていますが、実際には他のどの部位の腫瘍やがんとも異なる性質を持っています。
脳は人間の精神活動を含め、全身の活動機能をつかさどっているため、腫瘍のできた場所によっては重い障害が生じます。たとえ良性の腫瘍であっても、重大な事態を引き起こす可能性があるということが、他の臓器の良性腫瘍と大きく異なる点です。
脳は硬い頭蓋におおわれているため、頭蓋内の容積はつねに一定です。このため内部に腫瘍ができて成長すると、脳は腫瘍による圧迫から逃れることができず、比較的早くからさまざまな症状が現れます。
脳腫瘍のうち良性なものは、脳を包む膜である髄膜に生じる「髄膜腫」、ホルモンを分泌する脳下垂体に腫瘍が生じる「下垂体腺腫」、神経をとりまく「さや」に生じる「神経鞘種」などで、比較的ゆっくりと成長します。
これに対し悪性の腫瘍は、脳を作っている細胞の一種である「グリア細胞(神経膠細胞)」ががん化するもので、すばやく増殖し、浸潤し転移します。
グリア細胞とは、脳神経細胞(ニューロン)の周囲に分布し、ニューロンを支えて脳の形を保ちニューロンに栄養と酸素を供給する細胞です。ちなみに、ニューロン自体は分化を完了した細胞であり、それ以上の分裂、増加をしないため、基本的にがん化することはないといわれます。
脳腫瘍の分類
1.神経膠腫(しんけいこうしゅ)
グリア細胞(神経膠細胞)ががん化したもので「神経膠腫(グリオーマ)」と呼ばれます。すべての脳腫瘍の中でもっとも多く、下記の数種類に分類されます。
2.星細胞腫(せいさいぼうしゅ)
グリア細胞の一種である星細胞ががん化したものです。成人では、大脳に発生することが多く、小児では主に小脳に発生します。
神経膠腫の中でもっとも発生率が高く、比較的良性のものと悪性のものがあります。星細胞の形によって下記の数種類に分類されます。
A.非浸潤性星細胞腫
成長がゆっくりで、周囲に浸潤しません。
B.高分化型星細胞腫
成長が速く、周囲の組織に浸潤します。
C.退形成性星細胞腫
正常な星細胞と非常に異なる形状で、急速に成長します。
D.多形神経膠芽腫
正常な星細胞とまったく異なる形状で、非常に急速に成長します。
3.脳幹神経膠腫(のうかんしんけいこうしゅ:脳幹グリオーマ)
脳幹に生じる腫瘍で、診断で厳密に腫瘍の型を特定することが難しく、手術もできません。小児期の星細胞腫の半分近くが脳幹に発生します。
4.膠芽腫(こうがしゅ)
星細胞腫の一種ですが、異形度(細胞の変形の度合い)がとても高く、すべての脳腫瘍の中で、もっとも悪性度が高いとされています。生存率は平均1年数か月で45歳~65歳の男性が発症しやすいとみられています。
5.乏突起膠腫(ぼうとっきこうしゅ)
乏突起膠細胞ががん化したもので、発生率はあまり高くありません。制細胞腫に比べてゆっくりと成長し、比較的、治療成績も高いといわれます。悪性度が高い星細胞腫が混在することもあり、その場合は治療成績が著しく低下します。
6.上衣腫(じょういしゅ)
上位細胞(脳脊髄液をためる部屋)に発生するがん。悪性度はあまり高くないといわれますが、手術で完全に摘出するのが困難です。
7.髄芽腫(ずいがしゅ)
小脳に生じる腫瘍。主に小児に高い確率で発症します。
8.髄膜腫(ずいまくしゅ)
脳を包んでいる髄膜に腫瘍が発生するもので大半が良性ですが、ときに悪性に変わることもあります。40~50歳代の女性に多く発生するといわれます。
9.下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)
下垂体(脳下垂体)に発生する腫瘍です。大半は良性ですが、ときに悪性に変わることもあります。
下垂体は、脳の奥にぶら下がっている小さな器官で、視神経の経路の途中にあり、成長ホルモンなど、さまざまなホルモンを分泌する中枢です。
腫瘍ができることでホルモンが過剰に分泌されると、末端巨大症などを発症します。また、視神経が圧迫されると視力障害が起こります。
10.神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)
前庭神経(平衡感覚をつかさどる神経)に発生する腫瘍で、聴力障害が起こります。
脳腫瘍の原因
脳腫瘍ができる原因は明らかになっていません。
強いX線を浴びる、または長時間の携帯電話の利用による電磁波などによって脳腫瘍が起こるという仮説もありましたが、科学的な因果関係は立証されていません。
悪性星細胞腫は25~45歳に、膠芽腫は45~60歳で発症率のピークがあるなど、年齢によって発症率が異なっていることが統計的には明らかになっていることから、ある程度年齢が関係しているということはできそうです。脳腫瘍になりやすい遺伝的性質がある可能性もあります。
アメリカがん学会の資料によると、次の人々のリスクが高いとされています。
1.小児および高齢者
2.男性(但し、髄膜腫は40~50歳代の女性にもっとも多い)
3.X線を被曝したことのある人
4.免疫機能が低下している人
5.まれな遺伝的病気を持つ人(神経線維腫症、結節硬化症、ヒッペル・リンダウ症候群、ターコット症候群など)
6.有機溶媒、殺虫剤、石油製品などの化学物質に長時間にわたってさらされている人
脳腫瘍の症状
脳腫瘍が生じると、比較的早い段階から、頭痛、嘔吐、運動や言語の失調など、さまざまな症状を引き起こします。
硬い頭蓋におおわれた頭蓋内の容積はつねに一定です。その為、腫瘍が成長すると頭蓋の圧力が高くなり、頭痛、吐き気、嘔吐などを示します。脳腫瘍による頭痛は、一般の鎮痛剤などを使っても治りません。この頭痛は主に起床時に強く、その後は次第に弱まっていく傾向がありますが、進行すると大部分の患者が慢性的な頭痛を感じるようになります。
また、腫瘍による圧力で脳組織や神経を圧迫し、近くの神経を障害することにより、腫瘍ができた場所によって異なる症状を引き起こします。左の前頭葉の運動野(手足を動かす命令を発する部分)に腫瘍ができると右半身が麻痺し、右の場合は左半身に麻痺が現れます。
右利きの人の左脳の前頭葉に腫瘍ができると無気力、言語障害などを発症、視力をつかさどる後頭葉に腫瘍が生じると視野狭窄(視野が狭くなる)、視野欠損(視野の一部が欠ける)、幻覚などが生じます。
その他、発生場所によって、計算や読み書きができなくなる、記憶が悪くなるなど、脳の活動に関係するあらゆる障害が現れます。小脳や脳幹に腫瘍ができると、顔面麻痺、運動失調、めまい、難聴などが生じ、脳下垂体や松果体に腫瘍ができると、ものが二重に見えるようになったり、ホルモン分泌異常が起こったりします。
このように脳腫瘍は、できた場所によって症状が異なるため、症状をもとに腫瘍の場所を推測しやすいという性質があります。
脳腫瘍の診断
1.画像診断
基本的に、CTスキャン(コンピューター断層撮像法)、MRI(核磁気共鳴断層撮像法)超音波診断などによる脳内部の画像診断が行われます。
このほか、患者の血流中に造影剤を注入し、MRA(MRIアンギオグラフィ)と呼ばれる装置で脳内の血管の状態を撮影する「脳血管造影」という撮像法も行います。
2.開頭手術による病理診断
頭蓋を切り開き、腫瘍部分の組織を採取し、腫瘍の悪性度などを確定的に診断します。
脳腫瘍の悪性度(※数字が大きいほど高悪性度)
悪性度1 | 髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫、脈絡叢乳頭腫など |
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悪性度2 | 非浸潤性星細胞腫、乏突起膠腫、小脳星細胞腫など |
悪性度3 | 高分化型星細胞腫、退形成星細胞腫、異形性乏突起膠腫、上衣腫など |
悪性度4 | 脳幹神経膠腫、膠芽腫、松果体芽細胞腫、髄芽腫、転移性脳腫瘍など |
脳腫瘍の治療法(種類別)
非浸潤性星細胞腫
一般的に、手術でがんを取り除いた後、放射線の体外照射を行います。
高分化型星細胞腫
手術のみの場合と、手術後、放射線治療と化学療法を併用する場合があります。
退形成星細胞腫
手術のみの場合と、手術後、放射線治療と化学療法を併用する場合があります。医療機関によっては、免疫療法の臨床試験も考慮するところもあります。
多形神経膠芽腫
手術後、放射線の体外照射を行います。これに化学療法を併用する場合もあります。臨床試験も考慮します。
脳肝細胞膠腫
場所的に手術が不可能なので、放射線治療が中心となります。悪性の脳腫瘍の中では、治療が困難で生存率も低い腫瘍のひとつです。
膠芽腫
すべての脳腫瘍の中で、悪性度がもっとも高いとされ、手術、放射線治療、化学療法などを動員して治療を行っても、5年生存率は10%以下といわれます。
乏突起膠腫
化学療法が有効とされます。
上衣腫
場所が大脳の奥であることにより手術で完全に摘出することが困難であるため、手術後、放射線治療や化学療法を追加的に行います。
髄膜腫
外科手術による摘出で腫瘍を完全に取り除くことで完治します。小さい髄膜腫の場合は、開頭手術をせず、ガンマナイフによる放射線治療を行う場合もあります。
髄膜腫の中にも、まれに悪性のものがありますが、その場合、外科手術と放射線治療が併用されることがあります。
下垂体腺腫
外科手術が中心。化学療法や放射線治療も併用されます。
神経鞘腫
良性の腫瘍で、手術ですべて摘出する事により完治します。ガンマナイフによる放射線治療を行われます。