原因や特徴・初期症状について

卵巣がんの基本情報

卵巣がんとは

卵巣は女性の生殖器のひとつで、子宮の左右に1つずつあります。卵巣の役割は、その内部で卵を成熟させ、また女性ホルモンを分泌することです。卵巣にできる腫瘍には、他の臓器の腫瘍と同じように良性と悪性(がん)がありますが、その他に、境界型、低悪性度型などと呼ばれる腫瘍があります。

これらは良性腫瘍とがんの中間的な存在で、顕微鏡で見た組織は良性腫瘍と似ていますが、長期的にはがんと同じように転移する性質を持ちます。

卵巣がんにはさまざまな種類があり、WHO(世界保健機関)は、細胞の種類により27種類に分けていますが、これらは大きく分けると、「上皮がん」「胚細胞腫瘍」「性索間質がん」の3つのタイプに分けられます。

卵巣がんは、欧米諸国の女性に多いがんで、比較的、日本人は発症率が低いといわれますが、その数は年々増加しています。自覚症状が少ないため進行してから発見されることが多く、初期に発見される患者は3人に1人といわれます。

卵巣がんの分類

1.上皮がん(上皮性間質性がん)

上皮細胞(卵巣の内部の表面をおおっている細胞)ががん化したもので、卵巣がんの約90%がこのタイプです。漿液性がん、粘膜性がん、類内膜がん、明細胞がん、未分化がんなどがありますが、この中で、明細胞がんと未分化がんは進行が早く悪性度が高いがんです。

上皮がんは、早いうちから腹膜に点々と広がる性質をもち、そこから肝臓の表面や大網(胃から腸に垂れ下がる脂肪組織)に達します。

さらに、小腸や大腸、膀胱、横隔まで広がることもあります。横隔膜や腹膜にがんが広がると、胸水、腹水などがたまります。また、リンパの流れに乗って、骨盤や腹部の大動脈のまわりのリンパ節や、さらには胸や首、ももの付け根のリンパ節にも転移します。

2.胚細胞腫瘍

卵になる細胞(胚細胞、生殖細胞)ががん化したもので、卵巣がんの全体の5%程度です。10代~20代の若い女性に発症しやすいがんで、未分化胚細胞腫、卵黄脳腫、絨毛がん、奇形腫、胎児性がんなどがあります。

胚細胞腫瘍は、子宮や腸、膀胱など、卵巣のまわりにある臓器に直接広がります。

また、リンパの流れに乗って、骨盤や腹部の大動脈のまわりのリンパ節や、さらには胸や首のリンパ節にも転移します。血液に乗って、肝臓や肺、脳に転移することもあります。

進行が速いがんではありますが、今では効果の高い化学療法が見つかり、大部分の患者が完治するといわれます。

3.性索間質腫瘍(性腺管質腫瘍)

ホルモンを生産する細胞ががん化したもので、卵巣がん全体の5%以下です。胎児が形作られる過程でできる性索(女性は卵胞になり、男性は精細管になる)や、卵巣でホルモンを分泌する組織(性腺管質)ががん化するとみられています。

代表的なものに、顆粒膜細胞腫、セルトリ・ライディヒ細胞腫、繊維肉腫などがあり、この中でもっとも多いのは顆粒膜細胞腫です。

卵巣がんの原因

卵巣がんの原因はわかっていませんが、月経を多く経験した女性ほど発症しやすいことから、エストロゲンとプロエストロゲンのバランスが影響していると考えられています。発症リスクを高める要因として、以下の条件があげられています。

上皮がん(上皮性間質性がん)

・妊娠、出産の経験がない人
・30歳以降に出産した人
・初潮が早かった人
・閉経が遅かった人

月経のない状態が長いほど卵巣がんのリスクが減少すると考えられています。妊娠、出産の回数が多い、母乳を長い期間与えていた、経口避妊薬(ピル)を使用していたなどです。


A.ホルモン補充療法を受けていた人

骨粗しょう症や更年期障害の治療で長期にわたってエストロゲンの投与を受けると、わずかに卵巣がんのリスクが高まるという報告があります。


B.高脂肪の食生活を送っている人、肥満の人

因果関係は明らかではありませんが、欧米式の高脂肪・高カロリーの食生活や肥満が卵巣がんのリスクを高めるといわれています。


C.血縁者に卵巣がん、乳がん、大腸がんの患者がいる

卵巣がん患者の5~10%は遺伝によるものと考えられています。

たとえば、乳がんの発症リスクを高める遺伝子「BRCA1」「BRCA2」のどちらかに異常を持つと卵巣がんになりやすいことが知られており、生涯に卵巣がんになる確率は20~45%に達します。

遺伝子性の大腸がん家系の女性も、卵巣がんや子宮内膜がんになりやすいとされます。

胚細胞腫瘍、性索間質腫瘍

胚細胞腫瘍は30歳以下の女性に多く、子供が発症する場合もあります。Y染色体(男性の染色体)をもち、卵巣が奇形であるときもリスクが高くなるといわれます。

性索間質腫瘍のうち、顆粒膜細胞腫は閉経後の女性に多いがんですが、30歳以下で発症することもあります。セルトリ・ライディヒ細胞腫については、30以下の若い女性に多いがんです。

卵巣がんの症状

卵巣は「沈黙の臓器」といわれ、病気になってもなかなか症状が現れません。特に、上皮がんは初期の段階で自覚症状をもって患者が検診を受けることは稀です。

がんが進行してくると、お腹がなんとなく痛い、お腹が張る、お腹や腰に圧迫感を感じる、お腹にしこりやかたまりを感じる、背中や腰が痛いなどの症状が現れます。月経時以外の出血や、稀に、がんのできた卵巣がねじれて痛みを感じることもありますが、症状が曖昧な場合が多く見過ごしがちです。

更にがんが進行すると、重度の貧血になる、便通が悪くなる、尿が近い、頻繁に吐くなどの症状も出てきます。腹水が溜まるとお腹が大きくなり、胸水がたまると息切れを起こします。性索間質腫瘍の場合、月経が止まる、声がしわがれる、ひげが生えるなど、男性化現象が起こることがあります。

卵巣がんの診断

1.婦人科検診・超音波診断

卵巣がんの疑いがある場合、まず婦人科の検診と超音波診断を行います。婦人科検診では、腹部の触診、内診を行うことで卵巣、子宮、膀胱、直腸の形や配置を確かめます。

超音波診断は、お腹の上から行う超音波診断や、膣に超音波を発信する装置を入れて行う経膣超音波診断などを行います。

2.画像診断

CT(コンピューター断層撮像法)やMRI(核磁気共鳴撮像法)で、腫瘍の大きさや広がり、組織の状態などを調べます。大腸のX線撮影や、卵巣の血流量を調べる超音波検診を行うこともあります。

3.血液検査

血液中に腫瘍マーカー(卵巣がんが生産する物質)が含まれていまいかを調べます。しかし初期の場合は腫瘍マーカーの濃度が上昇しないことも多いため、むしろ、がんの有無を判定するより、がんの進行状態や治療に反応しているかなどを調べるのに役立ちます。

4.生検

卵巣がんの場合、1、2、3の検査を行っても、腫瘍が良性か悪性か判断できないことが少なくありません。確実に判定するには、腫瘍の細胞や組織をとり出して検査する必要があります。腹水や胸水が溜まっている場合は、それらを採取して調べます。

そうでない場合で腫瘍が5センチ以上のときは、良性の可能性が高くても卵巣を摘出して組織を調べます。というのは、卵巣がんはとても転移しやすいので卵巣に針を刺して生検用の組織を採取することによって腹の内部にがんが広がる恐れがあるからです。

卵巣がん(上皮がん)の病期(ステージ)

I期A.がんが片方の卵巣内にとどまっている。被膜の破綻がなく卵巣表面にがんがない。
B.がんが両方の卵巣内にとどまっている。被膜の破綻がなく卵巣表面にがんがない。
C.がんが片方または両方の卵巣内にとどまっている。被膜が破綻し卵巣表面に腫瘍がある。腹水や腹腔洗浄液に悪性細胞がある。
II期A.がんが卵管や子宮など卵巣の周囲に浸潤し、播種(腹腔内にがんが散らばる状態)がみられることがある。腹水や腹腔洗浄液に悪性細胞はない。
B.がんが他の骨盤組織に浸潤しているが、腹水や腹腔洗浄液に悪性細胞はない。
C.がんが他の骨盤組織に浸潤しているが、腹水や腹腔洗浄液に悪性細胞はない。
III期A.顕微鏡でのみ、がんが骨盤外の腹腔に転移していることがわかる。
B.肉眼で見て、がんが骨盤外の腹膜に転移していることがわかる。がんの大きさは2センチ未満である。
C.がんの大きさが2センチ以上で、骨盤外の腹膜に転移している。近くのリンパ節に転移がある。
IV期肝臓などに遠隔転移している。

卵巣がん(上皮がん)の治療法

Ⅰ期

片側の卵巣と卵管、または両側の卵巣、卵管、子宮を切除する。転移の有無を検査するために大網も一緒に切除する。手術後、化学療法を行う事もある。

Ⅱ期

両方の卵巣、参観、子宮、骨盤腹膜を切除する。直腸、小腸の一部も一緒に切除することもある。転移の有無を検査するために大網も一緒に切除する。手術前に化学療法でがんを縮小した後に手術を行う場合もある。

Ⅲ期・Ⅳ期

手術による完全切除は難しいが、手術を行う場合は両側の卵巣、卵管、子宮、骨盤腹膜を切除し、直腸、大網、後腹膜、リンパ節、脾臓、大腸、小腸もいっしょに切除する。手術前、または手術後に化学療法を行うこともある。化学療法の臨床試験への参加も考慮する。


資料請求


監修:孫 苓献(広州中医薬大学中医学(漢方医学)博士・アメリカ自然医学会(ANMA)自然医学医師・台湾大学萬華医院統合医療センター顧問医師)