再発と転移について

甲状腺がんの再発と初期症状、再発・転移の予防と治療方法

甲状腺がんの再発とは

甲状腺は、喉ぼとけの下にある小さな臓器で、新陳代謝を調整する甲状腺ホルモンを分泌する働きがあります。甲状腺がんには「乳頭がん」「濾胞がん」「髄様がん」「未分化がん」の4種類があります。

甲状腺がんは、他のがんと比較すると進行が緩やかで、予後も良いとされていますが、それでも再発するケースがあります。甲状腺がんの再発率は17%程度とさており、再発率の低いがんであると言えるでしょう。甲状腺がんの再発は、ほとんどの場合でもともとがんのあった部分や周辺のリンパ節に発生します。甲状腺がんは進行が遅いことから、再発が見つかったとしてもすぐに手術で切除をせず、放射線治療を行ったり、経過観察をしたりすることもあります。

甲状腺がんの転移とは

甲状腺がんは進行が非常に遅く、転移するケースはあまり多くはありません。しかし、まれに頸部リンパ節や肺、骨などに転移することがあります。乳頭がんは頸部リンパ節への転移が多く見られます。髄様がんはリンパや血液に乗り、骨や肺に転移しやすいようです。未分化がんは甲状腺の周囲に広がりやすく、肺や骨などに転移しやすい傾向があります。濾胞がんは血液に流れ込み、肺や骨に転移しやすい性質があります。

がんが肺や骨に転移した場合でも、原病巣である甲状腺がんの性質が引き継がれるため、がんの進行は遅いのが特徴です。甲状腺がんの最初の治療後、10年以上経過してから転移が確認されることもあるようです。

甲状腺がんが再発したときの初期症状

甲状腺がんの症状はがんの種類によって異なります。主な初期症状は以下の通りです。

乳頭がん・濾胞がんの症状

乳頭がんや濾胞がんの初期症状として、喉ぼとけの周辺にしこりが出来ることがあります。しこりは固くて痛みがないのが特徴です。皮膚の表面に凹凸が現れて、唾液を飲み込むと上下に動きます。また声がかすれることもあります。

髄様がんの症状

髄様がんは頸部にしこりが出来ることがあります。声が枯れたり、食べ物が飲み込みにくくなったり、喉に違和感を覚えるなどの症状があります。髄様がんは甲状腺がんの中で最も症状が出にくく、人によっては自覚症状がまったくないというケースもあります。

未分化がんの症状

未分化がんは、甲状腺に腫れや痛みが生じます。また、食べ物が飲み込みにくかったり、呼吸が苦しく感じたりすることがあります。その他、発熱や血痰が出る場合もあります。

甲状腺がんの再発・転移予防

甲状腺がんの治療で「TSH抑制療法」というものがありますが、再発予防に用いられることもあります。TSHとは、脳下垂体より分泌される甲状腺刺激ホルモンです。TSHは甲状腺がんの進行を促進することがわかっています。甲状腺ホルモンの分泌が減るとTSHが分泌され、甲状腺ホルモンの分泌が促されます。そのため、甲状腺ホルモンを服用することで、TSHの分泌を抑制するのです。TSH抑制療法以外にも手術後に体外から放射線と照射して、目に見えないがん組織を死滅させる再発予防法もあります。

また、定期的に検査を受けて、がんの再発や転移がないかを確認することも大切です。甲状腺の専門医であれば、首を触るだけでがんの有無がわかるケースもあるようです。触診だけでなく、問診、腫瘍マーカー等の血液検査、超音波検査、シンチグラフィー、CT検査、MRI検査などを、最初の治療から1~2年は3ヶ月毎に、2~3年は半年毎に実施するようにしましょう。

甲状腺がんの再発・転移が見つかったときの治療法

甲状腺がんが再発したとき、初回の治療で放射線治療を行った場合は、基本的に手術によって甲状腺の切除を行います。病状に応じて、片方の甲状腺だけを切除する「葉切除術」、2/3以上を切除する「亜全摘術」、甲状腺すべて切除する「全的術」を行います。全的術を行うと、甲状腺のはたらきが失われるため、薬剤によって甲状腺ホルモンを補う必要があります。なお、甲状腺がんが進行し、器官や食道、リンパ節などに浸潤してがんが広がってしまった場合は、甲状腺と一緒にこれらの器官を切除するケースもあります。手術によって日常生活に必要な機能が失われたり、後遺症が残ったりする場合もあります。

甲状腺がんが他の臓器に遠隔転移してしまった場合、がん細胞はすでに全身に広がっていることから、患者の負担を考慮して手術は行いません。甲状腺がんは抗がん剤に対する感受性が弱いため、放射線治療が中心となります。

甲状腺をすでに全摘出していて肺や骨に転移した場合は、「アイソトープ(放射線ヨウ素)治療」を行うことがあります。甲状腺の細胞には、ヨードと呼ばれる甲状腺ホルモンの元である元素を取り込む性質があります。甲状腺がんの転移先にもその性質が引き継がれるため、放射性ヨウ素が取り込まれ、内側からがん細胞を攻撃・破壊するのです。なお、放射性ヨウ素はシンチグラフィーで検出できるため、甲状腺がんの再発や転移の有無を確認するために用いることもあります。

監修:孫 苓献(広州中医薬大学中医学(漢方医学)博士・アメリカ自然医学会(ANMA)自然医学医師・台湾大学萬華医院統合医療センター顧問医師)