音楽

音楽と免疫力の関係

がん治療を行うにあたって、免疫力を高めるということは必要不可欠なことです。人の身体は、がんに侵されると免疫力が著しく低下します。

さらに、抗がん剤の投与や放射線治療を受けると、がん細胞だけでなく正常な細胞までも攻撃・破壊されてしまうため、ますます免疫力は低下してしまうのです。

近年、様々な研究により音楽を聞くことで免疫力を高めることが出来るということがわかってきました。がん患者に音楽を聴いてもらった直後に血液検査を実施したところ、音楽を聴く前よりも免疫機能にかかわるリンパ球の数が増加していたという実験結果もあります。

音楽療法という言葉を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか?音楽に触れ、聴覚からの刺激を脳に伝達させて免疫機能を活性化させることを、音楽免疫療法といいます。

音楽自体が病気を治すというわけではありませんが、免疫力を高めることで感染症などのリスクを遠ざけたり、がんなどの病気によって低下してしまった免疫機能を正常にしたりするなどの効果が期待できます。

身体に負担をかけることなく免疫力を高められる方法として、がん治療の現場ではニーズが高まっているのです。

なぜ音楽を聴くと免疫力が高まるのか?

どうして音楽を聴くことで免疫力が高まるのか、不思議に思う人も多いでしょう。人の免疫機能の働きは自律神経と深い関わりがあります。

自律神経とは、内臓や血管、呼吸などの働きを司る神経で、交感神経と副交感神経の二種類があります。交感神経は人が活動しているときに優位になり、副交感神経はリラックスしているときに優位になるといった具合に、どちらか一方が働いているときは、もう一方は休んでいる状態となります。

副交感神経には疫機能を正常にする働きがあり、こちらが優位に働いているときには白血球中のリンパ球が増加します。リラックス効果のある音楽を聴き、身心がゆったりと落ち着いた状態になると副交感神経の働きにより免疫力が高まるというわけです。

また、音楽を聴くことでストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制することが出来るということもわかってきました。コルチゾールは副腎皮質から分泌される腎皮質ホルモンで、人がストレスを感じることで分泌されます。

コルチゾールが多量に分泌されると、リンパ球の正常な働きが抑えられ、免疫機能の低下が引き起こされます。日頃から音楽に触れ、コルチゾールの分泌を抑えることで、身体の免疫機能を正常に保つことが出来るのです。

他にも、音楽を聴くことで免疫グロブリンAが増力するということもわかっています。免疫グロブリンAには病原菌を無毒化する働きがあり、免疫機能に大きくかかわる働きをしています。

免疫力を高める音楽にはどのようなものがあるのか?

では、免疫力を高めるためには一体どのような音楽を聴けば良いのでしょうか?様々な研究の結果により、周波数の高い音楽を聴くと良いということがわかっています。

周波数の高い音楽は、脳の中の延髄という部分に強く響きます。延髄からは副交感神経が出ているため、ここを刺激することで副交感神経を優位に働かせることが出来るのです。

周波数の高いものとして代表的なのがモーツァルトの楽曲です。モーツァルトの楽曲には3500~4500ヘルツの高周波の音が非常に多く含まれていて副交感神経を強く刺激します。

これは医療の現場では周知の事実で、病院の待合室などではモーツアルトの曲がかけられているということがよくあります。また、同じく周波数の高いものとしてオルゴール音があります。好きな曲のオルゴールを探して聴いてみるものも良いでしょう。

また、心地良いと感じる音楽を聴くことも大変有効です。心に安らぎを感じるような音楽を聴くことで、脳内にα波が出るのです。

α波とは脳波の一つで、これが脳内に出ているときは副交感神経が優位になるということが知られています。また、α波が出ると、前向きでイキイキとした気持ちになり、ストレスから解放されるということもわかってきています。

また、自然の中にある音を聞くことも免疫力を高めるのに有効です。川のせせらぎや野鳥の鳴き声、風の音や波の音などがあります。これらの音を聴くと、心に安らぎを感じるという人も多いでしょう。

こういう自然の音には「1/fのゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)」というものが存在します。自然の音には一定に聞こえるリズムの中にも、わずかに強弱があったり、速度に違いがあったりします。

このわずかな誤差が「1/fのゆらぎ」であり、私たちの脳には心地よいものとして認識されるのです。なお、先述のモーツァルトの曲にはこの「1/fのゆらぎ」が多く含まれていると言われています。

また、当然のことですが単純に自分が好きな音楽を聴くのも大事なことです。音楽は心理の部分に働きかける作用が強く、自分が楽しいと感じる音楽はストレスを遠ざけ、身心の健康へと導いてくれるからです。

監修:孫 苓献

広州中医薬大学中医学(漢方医学)博士・アメリカ自然医学会(ANMA)自然医学医師・台湾大学萬華医院統合医療センター顧問医師