高齢者のがん治療における問題点
高齢者のがん治療には様々な問題があると言われています。若年のがん患者と比較すると体力が低下しているため、手術を受けること自体が難しいと判断される場合もあります。また、手術が可能な状態であったとしても術後の合併症リスクが高く、手術をすることで逆に余命が短くなってしまうことさえあるのです。
また、高齢者は高血圧や糖尿病などの病気にかかっている場合が多く、何らかの薬を常用しているケースが多いのです。そのため抗がん剤との相互作用について注意が必要となってきます。抗がん剤の投与に際し、事前に血液検査を実施するのですが、持病を持つ割合の多い高齢者は検査結果が思わしくないことも多々あります。そのため抗がん剤の投与を延期せざるを得ないという事態が生じることもあるのです。抗がん剤の投与が出来たとしても、体力が低下している高齢者は、薬剤の代謝や排せつ能力も低下していることが多く、副作用が強く出てしまい日常生活に影響を及ぼすケースもあります。
このように、高齢者のがん治療には様々な問題が存在します。何を選択することが患者にとって最善なのか、医師と家族、そして患者本人が意思の疎通を図り、メリット・デメリットをしっかりと把握しながら決定していくことが大切だと言えるでしょう。
高齢者にも優しいがんの治療法
一般に、高齢者は若年者と比較するとがんの進行の速度が緩やかであると言われています。そのため、無理に手術で病巣を切除したり、副作用に耐えながら抗がん剤を服用したりするのではなく、免疫療法や代替療法など負担のかるい治療法を選択するということも大変意義のあることです。これらの治療は病状の劇的な改善は期待できないまでも、副作用のリスクが低く、体力の低下している高齢のがん患者でも安心して受けることが出来るものです。また、がん患者や家族の身体的・精神的な苦痛を取り除くことに主眼を置いた緩和ケアを受けることを選択肢の一つとして考えてみるのも良いでしょう。
高齢がん患者が普段の生活で気を付けるべきこと
高齢のがん患者が普段の生活の中で気を付けるべきことは、QOL(Quality of Life=生活の質)を維持するということです。患者が自分らしく、満足して生きていけるよう周囲による手助けが必要です。
高齢者には我慢強い人が多く、また自分が病気になったことで家族に迷惑をかけてしまっているという負い目を感じている人も多いようです。そのため、痛みや不安を押し隠してしまうケースが多々あるのです。がんに起因する痛みやストレスを感じた時は我慢せず病院のスタッフに相談をし、場合によっては緩和ケアを取り入れるのも良いでしょう。特に高齢者は病気への不安などから、うつ病を発症しやすいと言われていますので注意が必要です。
また、患者の意思を尊重するのはとても重要なことです。病気だからといって必要以上に行動を制限せず、ある程度はやりたいことをやらせてあげましょう。もちろん無理をし過ぎないよう注意をしながら見守ることも大切です。また、がんの治療方針については病院側と家族との間で意思決定されることが多く、患者本人の意見が反映されにくいとされています。患者本人が望む治療を受けられるよう配慮することも大変重要なことです。
加えて、高齢のがん患者の多くは残された余命を病院ではなく自宅で過ごしたいと願っているようです。病状の急変など心配な点も多いでしょうけれど、在宅医療などを適切に利用して、残りの人生を家族と共に過ごせる環境を提供することはQOL維持には大切なことです。本人が快適と感じる環境で療養することで病状が好転することも多々あるようです。
治る・治らないにこだわらず良い状態を保つ
近年では高齢のがん患者の場合、がんを治すということに主眼をおくのではなく、出来るだけ良い状態を保てるように努めることが大切だという考えが定着しつつあります。がん患者の平均余命や、各治療の生存率といったデータは豊富にありますが、誰もが必ずそれに当てはまるわけではありません。がん患者の余命は結局のところ誰にもからないわけですから、最終目標としてがんの完治を目指すのではなく、患者が病気の苦しみや不安から少しでも解放され、自分らしく残りの余命を生きていけるようサポートすることが何より大切なのではないでしょうか。
がん患者と医師との間でコンセンサスが取れていない場合が多々あるのも現実です。がんの完治を目指す医師と、苦しい治療はしたくないと考える患者や家族との間でうまく意思の疎通が図れないという状態に陥ることもあるようです。治療方針に関して少しでも疑問を感じる場合は、セカンドオピニオンなどを積極的に利用するべきでしょう。
残りの人生を自分らしく生きることを第一に考えた時に何を選択すべきか?がんを治すことよりも、痛みや不安を取り除き、家族と楽しく過ごしたり趣味に打ち込んだりする時間を少しでも長く持てるよう工夫することが大切なのではないでしょうか。
監修:孫 苓献
広州中医薬大学中医学(漢方医学)博士・アメリカ自然医学会(ANMA)自然医学医師・台湾大学萬華医院統合医療センター顧問医師