高齢者とがん治療
がんは1981年より日本人の死因第1位であり、年間で30万人以上ががんで亡くなっています。男性では2人に1人の割合で、女性は3人に1人の割合で罹患すると言われていて、がんは日本人にとってとても身近病気であり、誰でもかかる可能性のある病気であると言えるでしょう。
がんの治療費は一般に高額である上に、治療期間が長期に渡るケースや再発や転移の可能性もあり、身体的な面や精神的な面だけでなく、経済的な面でも大きな負担となりのしかかってきます。特にがんは年齢が上がるほど罹患率が高くなる傾向があり、高齢者にとっては頭の痛い問題です。治療に際して、医療費の自己負担割合は年齢や所得によって変わってきますし、患者の負担を軽減するための制度も複数ありますので、事前によく調べておくと良いでしょう。
70歳以上の患者の医療費について
満70歳を迎えると加入中の健康保険組合より「高齢受給者証」が交付されます。高齢受給者証は74歳まで使用が出来ます。病院を受診した際に高齢受給者証を提示すると患者の窓口負担は2割となります。なお、所得が現役並みの場合は3割負担となります。
病院を受診した際などに高齢受給者証を提示しなければ、窓口負担は一律3割になってしまうので注意が必要です。なお、このようなケースで本来は1割もしくは2割負担に該当している場合は、居住している市区町村役場の保険年金課に申請をすることで、差額の払い戻しが受けられます。ただし、申請をしてから払い戻しされるまでに3~4ヶ月かかります。また、医療機関への支払いから5年が経過した時点で時効となるため、それまでに申請をしないと払い戻しは受けられなくなってしまいます。
満75歳になると「後期高齢者医療制度」の適用対象となり、市区町村役場から被保険者証が交付されます。これまで被扶養者であったとしても被保険者となるのです。また、在職中であっても健保組合の被保険者から外れることになります。後期高齢者医療制度の適用対象となると、病院を受診した際の窓口負担は1割となります。なお、所得が現役並みの場合は3割負担となります。後期高齢者医療制度の対象となった時点で扶養家族がいる場合、その家族は被扶養者資格を失うため、改めて国民保健などに加入する必要が生じます。
高額療養費制度について
がんの治療において医療費が高額となるケースが多いのですが、患者の負担を軽減する制度が複数あります。積極的に利用していくべきでしょう。高額療養費制度は治療に際し、病院や薬局での窓口負担額が一定の額を超えた場合に、その分の費用の払い戻しを受けられる制度のことです。
費用の算出についてはいくつかルールがあります。費用は1ヶ月間(月初~月末) で算定します。複数の医療機関を利用した際はそれぞれで算出しますが、自己負担が21,000円以上となる医療機関が複数ある場合は合算します。なお、同一の医療機関であっても入院と外来、歯科と医科はそれぞれで算出します。ただし、入院と外来でともに自己負担額が21,000以上となる場合は合算します。なお、公的医療保険の適用とならない費用は、高額療養費制度の対象とはなりません。差額ベッド代や食事医療費などがこれに該当します
患者が負担する上限の金額を自己負担限度額と言います。この自己負担限度額は患者の所得と年齢によって異なります。詳しくは下記の表を参照してください。

※1月収28万円以上、課税所得145万円以上)
※2 被保険者が市区町村民税の非課税者等である場合。
※3 被保険者および、その扶養家族全員の収入から必要経費・控除額を除いた後の所得がゼロの場合
70歳以上で「住民税非課税」の場合、一ヶ月の間に支払う医療費が高額になることが見込まれるなら事前に、「限度額適用認定証」の交付を受けることをお勧めします。この制度を利用することで、患者の窓口での支払いは自己負担限度額までとすることが出来ます。限度額適用認定証加入中の医療保険に申請をすると交付が受けられます。
また、70歳以上で所得区分が「現役並み所得者」もしくは「一般」に該当する場合、手元にある「高齢受給者証」または「後期高齢者医療被保険者証」を提示することで患者の窓口での支払いは自己負担限度額までとすることが出来ます。事前の申請などは不要です。
なお、高額療養費は診療を受けた翌月から起算して2年で時効となります。時効を過ぎると払い戻しは受けられません。
その他の制度
高額療養費制度を利用しても差額が払い戻されるまでに3ヶ月以上かかることから、その間の医療費の支払いに充当する資金を貸し付ける制度として「高額医療費貸付制度」というものがあります。この制度を利用すると、高額療養費制度支給見込み額の8割に相当する金額を無利子で借り入れることが出来ます。
医療保険と併せて介護保険を利用している場合は、医療費と介護費を合計した金額が自己負担限度額を上回った場合に払い戻しを受けることが出来ます。この場合の限度額は、世帯の年齢や所得などで決まります。手続きは、加入している医療保険の窓口または、居住している市区町村役場の介護保険窓口でおこないます。
監修:孫 苓献
広州中医薬大学中医学(漢方医学)博士・アメリカ自然医学会(ANMA)自然医学医師・台湾大学萬華医院統合医療センター顧問医師