免疫療法とは
がんの治療法には放射線治療、抗がん剤治療、手術の3つが主流です。この3つに加えて、近年第4のがん治療として注目されているのが「免疫療法」です。がんの免疫療法は、患者自身の細胞を活用して免疫力をアップするという治療で、他の治療に比べて副作用や合併症が少ないのが特徴です。免疫療法は保険外診療(自由診療)となります。
免疫療法は患者自身の細胞を採取したのち体外で増殖、活性化したあとに患者に投与することで、人間が本来持っている免疫力をアップさせるという仕組みです。患者から採取した血液の中から免疫細胞を取り出し培養・活性化されます。2~3週間かけて培養した細胞を患者の体内へと戻します。患者自身の細胞を採取するため、適応障害や副作用、拒絶反応、アレルギー反応が起きにくいことも特徴です。
この免疫療法単体での治療効果(改善率)は完全消失から長期安定までの効果として、指標となる公的数値はありませんが、ある施設では約半数が半年間程度は病気の進行を抑えることができたとの治療結果があります。その反面、治療の効果がなく、進行した例もあるため、他の治療法との併用が必要な治療が必要な場合もあります。他の治療法と併用することで相乗効果を得ることができます。
免疫療法は副作用や合併症などがほとんどないため日常の生活の内容を大きくかえる必要がありません。治療中であっても、外出や旅行など、普段通りの生活を行うことができます。免疫療法は、重篤な場合をのぞいて自宅療養、外来通院で行います。通院による体への負担が考えられるときには入院を勧められることもあります
免疫療法の対象となるのは全身各所のがんです。患者個人のがんの状態によっていくつかの免疫療法の中から適応するものを選びます。ひとりひとり、ゆっくりと面談し、説明を行ったあとで治療開始となります。専門の知識とスタッフが必要なため、すべての病院で行っている治療ではありません。そのため、他の治療との併用については混合診療になる可能性を含めて相談する必要があります。免疫療法だけを専門に行っている病院もあります。複数の病院を受診する必要がある場合にはそれぞれの病院へも相談を行うことでより安全に、安心して治療を受けることができます。
他の治療との併用について
放射線治療など、従来の治療方法はがんを攻撃するということに着目して治療を行っています。目に見えるもの(手術できる病変・画像診断できる病変)から目に見えないものまでを含めて治療を行います。その過程の中で、少なからず免疫システムにダメージを与えます。そのダメージはときに大きく、体調に変化を与えています。初期のがんであれば、1回の治療で消滅に導くことが可能なときもありますが、問題なのは再発や転移です。手術では遠隔転移なおは適応になりませんし、放射線治療も全身的に行うことは不可能です。抗がん剤治療では免疫システムにダメージを与えてしまう…これらの問題点と表裏一体です。
免疫療法はこの免疫の部分に着目した治療です。免疫が強ければがん細胞にも影響を与えることができるという考え方に基づいています。免疫療法は副作用が少なく安心して受けることができる治療ですが、その治療効果には個人差があります。そのため、免疫療法はそのもの単体で治療を行わず、放射線治療や抗がん剤治療、手術などと組み合わせることで相乗効果により、効果を発揮することがあります。例えば手術でがんを切除した場合は、通常の正常な組織からの免疫細胞だけでなく、がん細胞からも免疫を作ることが出来るので治療の幅が広がります。免疫療法を考えるのであれば、手術のときに相談するというのもひとつの方法です。
免疫療法と相性の良い抗がん剤治療に分子標的薬があります。分子標的薬はがん細胞も正常細胞も殺さず増殖を抑えるものです。免疫力が活性化されると増殖の抑えられているがん細胞を攻撃することが可能となるため治療効果を発揮するものです。他にもホルモン療法など免疫システムに影響を与えない治療法や、免疫賦活剤のように免疫システムに刺激を与える治療法との相性がよく併用が可能です。
逆に免疫療法との相性がよくない治療もあります。がん細胞や正常細胞のDNAに損傷を与えることで治療効果を得ている抗がん剤がそれにあたります。一時的にでも損傷を受けた正常細胞は、活性化された免疫にとっては「異物」であり「正常でないもの」と認識される可能性があります。そのため正常細胞であっても攻撃を行うことがあり、抗がん剤治療後、しばらくの間は免疫療法を行うことができません。
免疫療法は自由診療のため全額自己負担となる治療法です。その費用を抑えるために、標準的に行われる放射線治療などで、ある程度がん細胞を死滅させたあとに免疫療法を行うことで、「攻撃すべきがん細胞」が減るため治療期間短縮につながる場合があります。
免疫療法の種類
免疫療法にはその性質によっていくつかの治療法があります。代表的なものを見ていきましょう。
免疫賦活(ふかつ)剤
「賦活」とは活力を与えること。物質の機能・作用を活発化することです。細菌に対抗する人間の体のはたらきを利用して、がん患者に対して細菌や細菌の作る物質を患者の体内に取り込みます。細菌やキノコ類、植物などから免疫力を増強(賦活化)する薬が作られており、このような薬を免疫賦活剤とよびます。日本では、連鎖球菌から作られた「ピシバニール」、カワラタケから抽出された「クレスチン」、シイタケの成分に含まれる「レンチナン」などががん治療に用いられています。免疫賦活剤は人間の免疫システムに対して次の5つのはたらきをすることが知られています。
- 免疫細胞の活動をうながす
- 免疫細胞にさまざまなサイトカインを分泌させ、抗がん効果をもつ免疫システムが働くようにする。
- がん細胞を自殺(アポトーシス)へと導く。
- がん細胞に対して直接攻撃する。
- 免疫を抑える物質のはたらきを妨害する。
免疫賦活剤だけで十分な治療効果を得ることは困難です。そこで多くの場合、化学療法などとの併用で使用されます。
サイトカイン療法
免疫療法の第二世代といわれるサイトカイン療法。免疫細胞同士の中で情報伝達物質であるサイトカインを利用します。サイトカインの性質を利用して免疫細胞の活性化を行います。のちに現れる第四世代でもサイトカインを活用します。体内にある複数の免疫細胞同士が連絡をとりながら作用しますが、この連絡をとるときに利用するのがサイトカインです。よく聞く「インターフェロン」はこの分類に入ります。夢の抗がん剤として使用されるようになりましたが、腎臓がんなどに一部の治療効果以外は、想定以上の成果がでなかったことと、副作用が強いこともあり主流にはなりませんでした。
養子免疫療法
リンパ球などの免疫細胞を体外で培養、活性化します。活性化した免疫細胞を体内に戻すことから養子免疫療法といわれます。養子免疫療法の中でも扱う細胞によりいくつかに分類されます。高度活性化NK(ナチュラルキラー)細胞療法や活性リンパ球療法などはこの分類に入ります。自分のリンパ球などを培養して使うため、従来の免疫療法に比べて副作用が少ないのが特徴です。注目されている養子免疫療法はNK細胞を使用した治療です。NK細胞を使った養子免疫療法が「高度活性化NK細胞療法」になります。
モノクローナル抗体療法
抗体医薬品の中で注目を浴びている治療法です。免疫細胞のうちB細胞のみを使用します。B細胞は、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異物に対して攻撃することができます。単一(モノ)のクロナール(クローンから作成された集合体)ということです。まじりっけのない抗体なので抗原(攻撃すべき細胞の目印)だけを目指して死滅することができます。実際にはこの抗体をつくるB細胞と、ミエローマ細胞という無限に増殖することができる細胞の組合せによって大量に培養することが可能になりました。悪性リンパ腫や乳がんなどの治療に使われています。
ワクチン療法
免疫療法の中で、比較的目にする機会の多い治療法です。「ペプチドワクチン」がこれに含まれます。CTL細胞(細胞傷害性T細胞)や樹状細胞療法で使われる薬剤です。ペプチドとはタンパク質の一種で、複数のアミノ酸を配合して作ります。がん細胞が持っている特殊なアミノ酸に似せて作られているのがペプチドワクチンです。ペプチドワクチンを体内にいれることで、人の免疫システムが敵とみなし攻撃を始めます。このときに免疫の活性化がすすむため、がん細胞へも攻撃を強めることができるという考え方です。がん細胞を区別するペプチドは200種類を超えるといわれ、個人によってそのタイプが異なるため、患者ひとりひとりに対してオーダーメイドで薬剤を作ります。
遺伝子治療
がん発症の原因は、遺伝子の異常が積み重なるために起きるという考えに基づいています。この治療は原因となる遺伝子の異常を減らすものです。免疫療法では効果が出るまでに1~2ヶ月必要ですが、遺伝子医療では2〜3週間で現れます。また、他の抗がん剤治療などと違い耐性(効果がなくなること)がないというのが特徴です。抗がん剤治療や放射線治療によって体力や免疫力が低下していても治療を行うことができます。2時間~3時間の点滴治療で終わるため入院加療を必要としません。適応制限や年齢制限がなく幅広く行うことができる治療です。自由診療6回を1セットとて行うことが多いです。
高活性化NK細胞療法
免疫療法の中で重要な意味を持つのがNK細胞(ナチュラルキラー細胞)とCTL細胞(細胞傷害性T細胞)です。この2つの細胞は、がん細胞を攻撃する働きをもっている細胞です。その中でNK細胞は、細胞傷害性リンパ球の一種であり、体内に入った異物や病原体に対して攻撃を行い死滅させます。免疫細胞の中で指令を受けずに自ら攻撃を行う「最前線の攻撃部隊」である性質を利用して行うのが高活性化NK細胞療法です。CTL細胞は攻撃対象となる細胞に、「攻撃する目印」を記憶させることで攻撃を開始しますが、NK細胞は常に体内を循環しており「出会ったがん細胞」を攻撃します。NK細胞を増殖させ、活性化することで「出会うがん」の数を増やすことが治療のポイントです。
免疫療法の費用
がんの治療というと、他の3大治療も含めて「高額である」というイメージがあります。免疫療法は新しい治療法であるということもあり、さらに治療費への不安を大きく感じる方もいるのではないでしょうか。どのくらいに治療費が必要なのかということについてご説明します。
免疫療法は「先端医療」として分類されていますので自由診療ということになります。現段階では保険適応外、全額自己負担です。自由診療のため、治療にかかる責任はすべて個人にあります。また、完治を目指して数回繰り返すということになると個人の負担額は大きくなります。病院や施設によって、治療の種類が違うため、金額は施設によってばらつきがあるのが現実です。
一部の施設での医療費例をご紹介します。
Tクリニック
初診料:20,000円
リスクチェッカー検査:120,000円
「がんペプチド誘導治療」1回:520,000円
「アポトーシス誘導治療」:72,000円
Kクリニック
「樹状細胞治療」1回:329,000円(通常1クール6〜8回)
「マクロファージ活性化療法」1クール(24回):1,234,000円
「活性化リンパ球療」1クール(6回):216,000円
Sクリニック
初診料:10,000円(税別)
「樹状細胞ワクチン療法」1セット(5〜7回):1,600,000円(税別)
「活性化リンパ球療法」1回:89,000円(税別)
以上のように行っている治療方法によって金額がまちまちです。目安としては、初診料が1万~2万、治療費は1クール(1セット)150~300万必要だということになります。
数クール治療を受けるとなると、金銭面での負担は大きくなります。先進医療であるため高額医療の対象からも外れます。免疫療法は医療行為ではありますが活性化した細胞は「医薬品」とは認められないため補助の対象外です。免疫療法のうち例外的なものが抗体医薬品と呼ばれるハーセプチン(トラスツズマブ)で乳がんの患者に使われる医薬品です。これは保険適応です。
■免疫療法の自己負担を減らすためには?
現在治療を受けている病院があるのであれば、免疫療法に必要な「検査」の部分だけを保険診療の適応内で受けることができます。また、大学病院などでは、「高度先進医療」として認められている為、免疫治療の直接必要な費用のみを自己負担とし、その他の入院費や投薬量などを保険適応とする特例として申請することができます。また大学の臨床試験に参加することで無料になることもあります。免疫療法で支払う医療費は全額自己負担が基本ですが、所得税の医療控除対象になるため領収書などは保管し、手続きを行うことをおすすめします。
免疫療法のメリット・デメリット
第4のがん治療法として注目されながらも、現時点ではその他の治療の補完的役割である免疫療法。先進医療とは、まだまだこれから発展が期待される分野ではありますが確実な効果や評価が不十分な部分があります。しかし、手術や放射線治療、抗がん剤治療などにおいても十分な効果が考えられないとなった場合の選択肢として、患者に希望を与えている治療です。藁にもすがる思いで治療を受けようとするとき、盲目的に信じるということのリスクを含んでおり、冷静に判断する必要がある治療です。
ここでは免疫療法のメリット・デメリットをご紹介します。
免疫療法のメリット
- がんが治る可能性がある
- 他の治療との併用が可能
- 副作用が少ない
- 進行したがんや転移したがんにも使うことができる
免疫療法の最大のメリットは正常細胞への「ダメージが少ないこと」です。これは副作用が少ないことを意味しています。免疫療法では重篤な副作用が現れることがありません。また、人間が本来もっている免疫力がアップすることで、体力や気力といった、体感できる症状があるため、意欲をもって生活を送ることができるといえます。
免疫療法のデメリット
- 科学的根拠が少ない治療である
- 医療費が高額(自己負担)である
- 抗がん剤治療の効果を下げることがある
免疫療法の仕組みは分かっても、その効果が一律に現れるわけではないため、効能については科学的根拠が少ないのが現状です。自由診療であるため、治療を受けることは自己責任となります。
がんが治ったという患者がいる一方で、効果が現れない患者もいます。患者自身の身体の免疫システムが異物(がん)と判断できなかった為に発症した病気です。患者の身体の免疫システムを増殖、活性化したからといって効果が十分にでるのだろうか?という点も科学的根拠が少ないとされる要因です。
自由診療のため、各施設によって診察料金を自由に設定できるため、高額な治療費を支払わなくてはならない場合も出てきます。料金に関しては事前に十分調べておく必要があります。
監修:孫 苓献
広州中医薬大学中医学(漢方医学)博士・アメリカ自然医学会(ANMA)自然医学医師・台湾大学萬華医院統合医療センター顧問医師