
昔から「がん家系」などという言葉を聞いたことはありませんか。
がんは本当に遺伝するのか、気になる人もいらっしゃるのではないでしょうか。
「遺伝子性がん(遺伝性腫瘍)」と呼ばれるがんの病気もありますが、がんは遺伝する場合と、そうでない場合があります。
今回は、がんの原因と遺伝子の関係について詳しく解説します。
遺伝性のあるがんの種類や、がんの予防対策について知りたい人はぜひ最後までお読みください。
今回は、がんの薬物治療4タイプと、治療効果を増強する漢方薬の活用法について紹介しましたが、がん治療において「この治療薬を使うべき」という正解はありません。がんの薬物療法に関する基礎知識を理解したうえで医師の説明をしっかり受け、最終的に患者さん本人が納得のいく選択をすることが大切です。特に、副作用については、事前に症状を把握しておくことで患者さんの心の負担は軽くなります。患者さんが安心してがん治療を受けるためにも、薬物療法に対する理解を深めていきましょう。また、漢方薬は今回紹介した薬物療法との相乗効果が期待できるため、ぜひ積極的に活用を検討してみてください。
がん患者と家族の向き合い方。不安に寄り添って自分のものにする
1.そもそもがんは遺伝する病気なのか?
がん細胞自体が親から子に遺伝することはありません。
両親のどちらか、あるいは両方が遺伝性のがんを保有する場合、がんの発症に関わる遺伝子変異が子に50%の確率で受け継がれます。
また、遺伝子変異が子に受け継がれても、100%がんを発症するわけではありません。
通常の人よりもがんを発症するリスクは上がることは事実ですが、がんは遺伝的要因だけでなく、加齢や環境といった様々な要因が複合して発症します。
成人がん患者のうち、遺伝的要因が関与している人は5〜10%と言われています。
「がん家系」は、あくまでがんを発症する要因の一部に過ぎないと理解しましょう。
1-1.がんは遺伝子変異によって起こる病気
健常な場合、細胞の増殖は遺伝子によってコントロールされています。
例えば、怪我をした際は細胞の増殖を促して傷口をふさぎ、回復完了後は細胞の増殖にブレーキをかけて生体組織のあるべき姿を維持します。
しかし、「がん抑制遺伝子」に変異が起きると細胞の増殖をコントロールできなくなり、がんに至るという原理です。
正確には、遺伝子は2つで1セットになっているため、がん抑制遺伝子が2つとも変異するとがんを発症します。遺伝によりがん抑制遺伝子のうち1つが先天的に変異している場合、残りの1つが後天的に変異した時点でがんに至ります。
がん抑制遺伝子に先天的な変異がない人よりもがんになる確率は高いですが、ただちにがんを発症するわけではありません。
1-2.遺伝子の変異について
遺伝子とは、私達が生命を健康的に維持するためのタンパク質を作り出す設計図の役割を担っています。
遺伝子変異の多くは、健康や生命に重大な悪影響を与えるものではありません。
しかし、一部の遺伝子変異によりその機能が失われれば、生命活動に支障をきたす可能性があり、がんもその一つです。
遺伝子変異は遺伝的要因、環境的要因、あるいは細胞分裂の際の偶発的なミスによっても生じます。
一方、人間の体には遺伝子変異を修復するタンパク質が存在します。
仮に遺伝子変異が起きても、通常は遺伝子を修復するタンパク質の働きのおかげで重大な問題には至りません。
ただし、遺伝子を修復するタンパク質の設計図となる遺伝子自体が変異してしまうと、がんの発症につながる可能性があります。
2.遺伝子変異の原因
遺伝子変異の原因は、以下のように様々です。
●遺伝子変異の原因
・紫外線
・飲酒
・タバコ
・活性酸素
・化学物質
・感染症
・加齢
・DNAの複製エラー
上記のように、遺伝子変異の原因の多くは紫外線や飲酒、喫煙といった刺激によるものです。
また、加齢によってもリスクが上がることがわかっています。
2-1.遺伝するがんとは?
がんの中には、遺伝しやすいがんと遺伝しにくいがんがあります。
以下では、遺伝しやすいがんの特徴について解説します。
2-2.遺伝性のあるがんの種類
遺伝しやすい代表的ながんの種類と関連するがん抑制遺伝子について、以下の表に示しました。

その他、以下のがんの場合も遺伝性の可能性があります。
●遺伝性のがんの例
・膵臓がん
・甲状腺がん
・骨肉腫
・スキルス性の胃がん
2-3.遺伝する確率が高くなる場合
血縁者が以下に当てはまる場合、親から子へと遺伝する確率が上がります。
・若年層でがんを発症している
・同じ種類のがんを複数回(複数箇所)発症している
・同じ種類のがんを発症している人が複数人いる
遺伝性以外のがんの場合、50代以降に発症者が急増する傾向にあります。
一方、遺伝性のがんは先天的に片方の遺伝子が変異しているため、若くしてがんを発症するケースが多いです。
したがって、親や兄弟姉妹といった血縁者の中にがん患者がおり、かつ30代以下といった若年層で発症している場合、先天的な遺伝性のがんである可能性があります。
親から子にがん関連の遺伝子変異が受け継がれた場合、子も同じ種類のがんを発症するリスクが高まります。
例えば、親が乳がんの抑制遺伝子である「BRCA1」「BRCA2」の変異を起こしており、子にもその変異が受け継がれると、子も同様に乳がんとなるリスクが上がるということです。
特定のがんになりやすい遺伝子変異を保有することになるため、同じ種類のがんを複数回(複数箇所)発症しやすいのが特徴です。
また、同様の理由から、血縁者の中で同じ種類のがんを発症する人が複数人存在しやすいといえます。
3.乳がんの遺伝性について
乳がん患者のうち7〜10%が遺伝性というデータがあります。
また、遺伝性の乳がん患者のうち58%は、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)という種類のがんです。
HBOCは、「BRCA1」「BRCA2」と呼ばれるがん抑制遺伝子の変異により生じます。
以下に、健常な日本人女性とHBOCの人の乳がん発症リスクの比較結果を示しました。

3-1.子どものがんに遺伝性はある?
子どもがかかりやすい種類のがんは、以下のとおりです。

しかし、子どものがんが遺伝性である確率はわずか8.5%であり、9割以上は遺伝性ではないといえます。
子どものがんの原因は、ほとんどが細胞増殖の際の偶発的なミスによるものです。
人間は受精卵の状態から身体を形成するまでに急速な勢いで細胞増殖を起こしますが、その際に遺伝
変異が生じるものと考えられます。
4.がんの遺伝子変異を調べる方法
遺伝子変異の有無を調べるには、医療機関にかかるしかありません。
市販でも遺伝子検査キットは存在しますが、遺伝的要因かどうかまで判定はできません。
以下では、遺伝子検査の種類と遺伝性のがんの基準について解説します。
4-1.遺伝子検査の種類(がん遺伝子パネル検査、DNA検査)
遺伝子検査には、がん遺伝子パネル検査や、従来のDNA検査が存在します。
がん遺伝子パネル検査は、がん組織や血液を採取し遺伝子変異の有無を調べる手法です。
一度に多くの遺伝子を同時に検査できるのが、がん遺伝子パネル検査の特徴です。
遺伝子変異を起こしている遺伝子の種類が特定できれば、適切ながん治療薬の選定につながると期待できます。
しかし、原因遺伝子の特定が難しい場合は適切な治療薬の選定に至らないケースもあります。
がん遺伝子パネル検査によって適切な治療薬の選定につながる確率は10〜20%です。
一方、従来からのDNA検査では、乳がんや大腸がんといった特定の種類のがんに関連する遺伝子1つまたは少数をピンポイントで調べられます。
網羅的な検査はできないものの、検査結果をもとに原因遺伝子の特定ができれば、適切な治療薬の選定につながりやすいといえます。
4-2.遺伝性と言われるがんの基準
遺伝性のがんを判断するための基準としては、いくつかのガイドラインがあります。
例えば、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の可能性を判定する基準は以下のとおりです。
● 50歳以前に乳がんを発症した
●トリプルネガティブ乳がんである
●1人に2つ以上の原発乳がんがある
●乳がんを発症しており、かつ以下①〜③のうちいずれかに該当する
①近親者に50歳以下の乳がん患者が1人以上いる
②近親者に年齢を問わず卵巣がん・卵管がん・腹膜がん患者が1人以上いる
③近親者に年齢を問わず乳がんや膵がん患者が2人以上いる
●卵巣・卵管・原発性腹膜がんである
●男性乳がんである
(出典:https://www.akiramenai-gan.com/column/10324/&sa=D&source=docs&ust=1674791561371013&usg=AOvVaw1YBGYQsmfQHVvLDL1-8L0L)
また、リンチ症候群については、遺伝性のがん患者の可能性がある患者を把握するためのスクリーニング基準として、改訂ベセスダ基準と呼ばれる以下の基準が示されています。
2.年齢を問わず、以下①、②のいずれかに該当する
①同時性もしくは異時性の大腸がんを発症
②リンチ症候群(HNPCC)関連腫瘍(結腸直腸がん、子宮内膜がん、胃がん、卵巣がん、膵がん、腎盂・尿管がん、胆管がん、脳腫瘍、Muir-Torre症候群における皮脂線腫や角化棘細胞腫、小腸がん)の発症
3.60歳以前に大腸がんと診断され、MSI-H組織所見を示す
4.第一度近親者の1人以上に大腸がんとリンチ症候群(HNPCC)関連腫瘍を発症した者がおり、そのうちの少なくとも1人は50歳以前に発症した
5.年齢を問わず大腸がんと診断された者が第一度近親者および第二度近親者のうち2名以上いる
(出典:https://www.akiramenai-gan.com/column/10324/&sa=D&source=docs&ust=1674791561371013&usg=AOvVaw1YBGYQsmfQHVvLDL1-8L0L)
上記はあくまでスクリーニング基準のため、当てはまった時点で遺伝性のがんが確定するわけではありません。
医師の判断のもと、より高精度な遺伝的評価へと移行します。
5.がんの発症の原因
家族ががんを発症した場合、「自分も遺伝性のがんになるのでは?」と感じるかもしれません。
しかし、家族と共有しているのは、遺伝子だけでなく、環境も同様です。
家族全体ががんになりやすい生活習慣を行った場合、遺伝的要因でなくてもがんを発症する確率は高まるでしょう。
以下では、がんの発症の要因と予防法について解説します。
がんの薬物療法4タイプとは?副作用や漢方薬の活用についても紹介
5-1.遺伝的要因
遺伝的要因のがんとは、生まれつき見られるがん抑制遺伝子への変異が原因で発症するがんのことです。
1年間で新たにがんを発症する患者は約60万人ですが、そのうち遺伝性のがんは5〜10%といわれています。
生まれつきがん抑制遺伝子に変異がある場合、がんを発症する確率は上がりますが、ただちにがんを発症することはありません。
また、実際には、遺伝的要因と環境的要因が複合してがんに至るケースが多いです。
5-2.環境的要因
環境的要因のがんとは、日々の生活習慣や様々な外部刺激による遺伝子変異が原因で発症するがんのことです。
具体的な環境的要因は、以下のとおりです。
●生活習慣に関する環境的要因
・食生活
・運動習慣
・飲酒
・喫煙
●外部刺激に関する環境的要因
・紫外線
・放射線
・感染症
・ストレス
5-3.がんを予防するには
多くのがんは、遺伝的要因と環境的要因の複合によって起こります。
遺伝的要因が考えられる場合には、がん検診などを定期的に行うことが予防につながるでしょう。
検診を行う頻度などは医師に相談することをおすすめします。
また、環境的要因については、がんの発症の原因となる行動を控えるのが有効です。
日本人におけるがんの発症要因TOP3は以下の通りです。
●日本人におけるがんの発症要因TOP3(男性)
1位:喫煙(23.6%)
2位:感染症(18.1%)
3位:飲酒(8.3%)
●日本人におけるがんの発症要因TOP3(女性)
1位:感染症(14.7%)
2位:喫煙(4.0%)
3位:飲酒(3.5%)
(出典:https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html)
以上の結果をもとに、国立がん研究センターでは以下の取り組みを推奨しています。
●がんの予防につながる5つの健康習慣
・禁煙する
・節酒する
・食生活を見直す
・身体を動かす
・適正体重を維持する
上記5つすべての健康習慣を取り入れた場合、男性で43%、女性で37%もがんの発症リスクが低下した結果が得られています。
一度にすべてを行うのは難しいので、取り組めそうなアクションから実践していきましょう。
6.まとめ がんは全てが遺伝性ではないことを理解し、対策して予防につなげよう
今回は、遺伝性のがんの原因や遺伝子との関係について解説しました。
家族ががんを発症しても、必ず遺伝するわけではありません。
親から子へと遺伝子変異が受け継がれる確率は50%であり、その上がんが生涯発症しないケースもあります。
遺伝性のがんであっても、多くの場合は遺伝的要因と環境的要因が複合してがんに至ります。
日頃から正しい対応と健康的な生活習慣を心掛ければ、がんの発症リスク低下につながるので、ぜひ実践してみてください。
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