
「がんの診断って血液検査だけでもできるの?」
「胃カメラや大腸カメラはしたくない」
「もっと手軽にがんと分かる方法はないの?」
日本人の死因の第1位となっているがん。血液検査だけでがんの診断ってできないの?と疑問に思われている方もいるのではないでしょうか。
結論を言うと、血液検査だけでがんと診断することはできません。血液検査はがんと診断するための一つの指標にはなりますが、現状の医療技術では血液検査だけで、がんの診断をおこなうことは不可能です。
この記事では、がんの血液検査や確定診断に必要な検査について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
1.がんの血液検査とは

がんの血液検査は、がんの診断の補助やがん診断後の経過や治療の効果判定のためにおこないます。血液検査結果でみるのは「腫瘍マーカー」という数値。しかし、がんになったからといって腫瘍マーカーが必ず上がるわけではありません。そのため、現代医療において血液検査のみでがんと診断するのは困難な状況なのです。
1-1.がんの指標となる腫瘍マーカー
腫瘍マーカーとは、体内でがんが発生したときに作られる特徴的なタンパク質などの物質のことです。この特徴的な物質は血液や尿中に存在するため、血液を採取して値を調べます。それぞれがんが発生した部位によって、上昇する腫瘍マーカーは異なります。がんの発生部位によって上昇することのある腫瘍マーカーは以下のとおりです。

引用:地方独立行政法人栃木県立がんセンター
腫瘍マーカーについて注意しておきたいのが、がんがあるからといって必ず腫瘍マーカーが上がるとは限らないことです。がんがない状態や良性の腫瘍の場合にも増加することがあります。
たとえばCEAは、肺炎や肝硬変、膵炎、結核、糖尿、腎不全、喫煙などで上昇することがあります。また早期がんである場合、腫瘍マーカーは上昇しないことが多いです。逆に、数値が高い場合にはがんがある程度進行している可能性が高いでしょう。
1-2.他にもがんの場合に変動することがある数値
がんになって変動する検査データは腫瘍マーカーだけではありません。がんで病期が進むと好中球の値が上がることがあります。好中球が上昇する原因としては以下が考えられています。
●組織の壊死
●感染症の合併
●腫瘍細胞からのG-CSF等の造血因子の産生など
他にも、がんが発生した部位によって、それぞれ変動する検査データは異なります。たとえば、肝臓がんが疑われる場合、以下の検査項目を診断指標の1つとして確認することがあります。
参考:https://www.med.nagoya-u.ac.jp/surgery2/clinical/digestive/disease/liver/inspection.php
このように腫瘍マーカーだけではなく、他の血液検査データもがん診断の指標の1つとして使われることがあります。
2.がんの診断のためにおこなわれる主な検査

がんの診断でおこなわれる主な検査は、以下のとおりです。
●血液検査
●X線検査(レントゲン)
●CT検査
●MR検査
●超音波検査
●内視鏡検査
●病理検査
がんの確定診断のための検査は、それぞれがんが疑われる部位によって異なるのが特徴です。ほとんどの場合、複数の検査の結果をもとに確定診断をおこないます。
たとえば、X線検査(レントゲン検査)結果で肺がんの疑いがあるとされた場合、血液検査やCT検査などでより詳しい検査をします。そのうえで、気管支鏡検査・生検・手術のいずれかで病理組織を採取、検査を実施して確定診断に至ることが多いでしょう。
大腸がんや胃がんの疑いがある場合には、大腸カメラや胃カメラをおこない、病変部位を採取し病理検査にかけることで、確定診断につなげます。ほかにも、PET検査やMRI検査などで転移の有無などを確認していきます。
それぞれの検査について詳しく解説していきます。
2-1.血液検査
がんがあると、血液や尿中に特徴的なタンパク質などの物質が発生します。この特徴的な物質を「腫瘍マーカー」といいます。
腫瘍マーカーは血液検査で調べることが可能であるため、体への負担が少ないことがメリットです。しかし、がんがあるからといって必ず腫瘍マーカーが上がるとは限りません。がんがない状態や良性の腫瘍の場合にも増加することがあるため、腫瘍マーカーの結果だけではがんであるという確定診断はできません。また、がんの進行度が早期である場合、この腫瘍マーカーは上昇しないことが多く、数値が上がっている場合にはがんがある程度進行している可能性が高いでしょう。
血液検査は、がんと診断する際の1つの指標として用いられる検査になります。また、がんの治療開始後には治療の効果を判定するための指標としても腫瘍マーカーが用いられます。
2-2.X線検査(レントゲン検査)
X線検査はレントゲン検査ともいわれ、X線を使ってがんの有無や形を確認するためにおこないます。肺や骨などの状態を調べるために最初におこなうことの多い検査です。
骨や水分、脂肪などの体の組織によってX線の通りやすさが異なることを利用して、画像として映し出します。胃や大腸などの消化管、尿管や膀胱などの尿路系を調べるときには、病変をより分かりやすくするために造影剤を使うこともあります。
検査自体は数分で終わり、撮影した部位を画像ですぐに確認することができるため、広くおこなわれている検査です。しかし、X線検査では体の中を一方向から画像にしているため、詳しい検査には向いていません。より詳しく検査する場合には、以下で解説するCT検査やMRI検査が用いられることが多いです。
2-3.CT検査
CT検査は、体の周囲からX線を当て画像上、体を輪切りの状態にして観察する検査です。検査の際には、寝台に仰向けになり、そのまま筒状の機械の中を通過しながら撮影します。
造影剤を使用して検査をおこなうこともあります。造影剤を静脈から注射したり飲んだりすることで、病変をより鮮明に写し出すことができるためです。ただし、造影剤でアレルギー反応が出ることもあるため注意が必要です。そのため、造影剤を使用する場合は事前に同意を得てからの検査になります。
アレルギー体質の方、造影剤でアレルギーが出たことがある方は、事前に医療スタッフに申し出てください。検査が終わってしばらく経ってから症状が出ることもあるので、アレルギー症状が出た場合には、すみやかに検査を受けた医療機関に連絡しましょう。
2-4.MRI検査
MRI検査は、体に強力な磁力(磁場)を当てることで、体の断面像を観察する検査です。さまざまな角度の断面を見ることができるのが特徴です。そのため、脊髄や骨盤内、骨の断面など、X線検査やCT検査では撮影しにくい部位まで調べられます。
しかし、MRIは強い磁場を発するため、心臓ペースメーカーがある患者さんは用いることができない検査となっています。また、金属製の物質が体内にある場合にも、検査が受けられないケースがあるため注意が必要です。
検査時には、寝台の上に仰向けになり、寝台ごと筒状の機械の中に入ります。検査中は装置から大きな音がしますが、これは磁場を起こすためのものなので心配ありません。検査の目的によって、造影剤を飲んだり静脈から注射することもあります。
2-5.PET検査
PET検査は、以下の目的でおこなわれる精密検査です。
●治療開始前にがんの有無や広がり、他の臓器への転移がないかの確認
●治療中の効果を判定
●治療後の再発がないかを確認など
PET検査は、FDG(放射性フッ素を付加したブドウ糖)を使っておこないます。静脈内にFDGを注射し、がん細胞に取り込まれたブドウ糖の分布を画像にします。CT検査やMRI検査とセットでおこなわれることもあります。PET-CT検査では、PET検査とCT検査の画像を重ね合わせることで、がんの有無、がんの場所や広がりを高精度で診断することが可能です。
PET検査の際は、検査の当日6時間前から糖分を含む飲食物の摂取はできません。検査の流れは以下のとおりです。
1. 検査の直前に排尿を済ませ、FDGを注射
2. 1時間程度ベッドなどで安静にしてFDGが体内に取り込まれるのを待つ
3. 寝台の上に仰向けになり撮影(時間は30分程度)
撮影した画像でがんが確認しにくい場合には、時間を置いて再度撮影することもあります。撮影自体は30分程度で終わりますが、前後での待機時間があるため、3時間前後は検査室から出ることができません。
検査後は、体に取り込んだFDGを体外に排出するために、水分を多めにとってもらいます。糖尿病などで高血糖の状態の場合、正確な結果が出ないことがあるため、事前に医師との相談が必要です。
2-6.超音波検査
超音波を発する装置を体に当て、音波がはね返る様子を画像にすることで、体内の状態を観察します。がんのある場所や、形・大きさ、周辺の臓器との関係などを確認することを目的におこなわれます。 妊婦さんが胎児の状態を確認するためにお腹に当てる機械と同じ検査です。
腹部や頸部の検査のときは、ベッドに横になり、超音波が伝わりやすくな るように検査用のゼリーを塗り、器械(プローブ)を当てます。痛みなどはありません。肝臓がんや乳がんなどでは、血流を見るために、造影剤を使用して超音波検査をおこなうこともあります。
2-7.内視鏡検査
レンズとライトが付いた細い管を体の中に挿入し、咽頭、消化管 (食道、胃、十二指腸や大腸)、気管、膀胱などを観察する検査で す。病変を直接観察することができるうえに、病変の一部を採取し、病理検査をおこなうことが可能です。
観察する部位によって異なりますが、検査前は食事を摂らない状態で必要に応じて点滴をします。
2-8.病理検査
病理検査では、組織を採取し、がんかどうかの判断と細胞の性質を調べます。がんの診断時には、欠かせない検査です。がんが疑われている病変から細胞や組織を採取し、病理医が顕微鏡でがんかどうか観察します。がんであった場合にはどのような種類であるのかまで調べます。
個別の細胞を見る検査を細胞診検査(細胞診断)といいます。細胞の採取には以下の方法があります。
●口腔、気管、 膀胱、子宮などの粘膜上からヘラやブラシのようなものでこすりとる
●皮膚から針を刺して吸引
●痰や尿などの液体中に浮遊している細胞を採取
また、個別の細胞だけでなく、細胞のかたまり、正常細胞との関わりの具合など、組織の状態を見る検査を組織検査(組織診断)といいます。細胞異型に加え、構造異常の情報も調べられるため、細胞診に比べて診断率が高いのが特徴です。
組織の採取方法は以下のとおりです。
1. 内視鏡を用いて病変の一部をつまみとる
2. 特殊な針を刺して採取
3. 手術で組織の一部を切除
4. 手術で切除した組織全体を細かく調べる
必要に応じて、手術の間にがんが疑われる組織を採って診断する術中迅速病理診断がおこなわれることもあります。
3.まとめ:血液のみで診断ができる時代がくる可能性はある

2022年12月慶應義塾大学などは、がん患者の血液に含まれるマイクロRNAを網羅的に解析し、13種類のがんを90%の高い精度で区別できることを世界ではじめて実証したと発表しました。今後、1回の採血で、がんを早期発見できる次世代診断システムの実用化を視野に入れているとのことです。
このことより近い将来、血液検査のみでがんの早期発見、早期診断できる時代が来る可能性があるでしょう。しかし、現代の医療においては血液検査のみではがんの確定診断はできません。早期がんであれば尚更です。
がんは早期発見が非常に大切です。早期発見であれば、どの部位のがんであっても生存率が上がります。がんの早期発見のためには、人間ドックなどの定期的な検診が大切です。日本人の2人に1人ががんにかかるといわれています。自分は大丈夫と思い込まずに、最低でも1年に1回は検診を受けるようにしましょう。