患者さんにとって、がんの再発というのはかなりの衝撃を受ける事実でしょう。
辛いがん治療がやっと終わったと思っていても、残っていた小さながんが大きくなったり別の場所に新たながんが転移してしまっていることがあります。
この記事では、がんの再発や転移、再発の治療や予防について解説しています。
がんの再発が起きる理由や、がんの再発率、再発したがんの治療や再発予防について知りたい人はぜひ最後まで読んで参考にしてください。
1. がんの再発とは
がんの再発や転移が起こるのは、かなり複雑な仕組みであり、必要な検査や治療方法も症状によって異なります。
そもそもがんが進行するのは、どのような仕組みになっているのでしょうか。
がん細胞は、正常な細胞とは異なる働きをしています。
●正常な細胞:体の状態に合わせて増殖を抑えたり、成熟化してさまざまな機能を働かせたり、他の細胞と入れ替わったりする性質がある
●がん細胞:細胞の仕組みに異常があり、長時間かけて細胞数を増やしていき、他の場所に移動したりする性質がある
がんの進行は、さまざまな要因が影響していると言われています。
がんが発生している場所やがんの大きさ、患者さんの体の状態(年齢や体調など)によっても異なります。年齢が若いほど、がん細胞が広がるのが早いことが多いです。
今までに受けてきたがんの治療方法(薬物療法や放射線治療など)、治療による効果によっても再発リスクは変わってくるでしょう。
がんの再発パターンは以下の2つの場合があります。
●がんが最初にできた部位(原発巣)に再び現れる場合
●最初の場所(原発巣)から、がん細胞が移動して別の組織に現れる「転移」の場合
例えば大腸がんから、肺に転移した場合は大腸がんからの肺転移という認識になります。
このように転移した部分のがんは、もともとあったがんと同じ性質を持っています。
そのため、がんの原発の場所、再発・転移の場所によって治療方針が決められることがほとんどです。
2. がんが再発してしまう理由は?
なぜ、がんは再発や転移を繰り返してしまうのでしょうか?
がんの再発はがん治療が無事に終了したとしても、手術で取り除けなくて残った小さながんや、抗がん剤治療や放射線治療で小さくなったがんが再び大きくなって現れることによって起こります。
また、別の部位にがんが転移していて新たに発生してしまう場合も、「がんの再発」として見なされます。
初期のがん治療による手術で、完全にがんが取りきれていれば再発する可能性は少ないです。
しかし発見が遅れたり、最初のがんの発見時に、すでに別の部位に転移している場合もあります。微少ながんは検査をしても見えないこともあり、発見が遅くなってしまうこともあるでしょう。
がんの転移は、がん細胞が血液やリンパ液によって、別の器官や臓器に流れて移動し増殖することによって起こります。
主に転移が起こる部位は肺や肝臓、脳、骨、リンパ節などです。
リンパの流れや血液の流れが集まる場所に起こりやすいのが特徴です。
3. がんの再発・転移の分類、再発率について
がんの再発・転移はどのように分類されるのか解説します。
またがんの再発率についても記載しているので、ぜひ参考にしてください。
がんの再発は3つの分類がある
がんの再発は、最初の部位と成り立ちによって大きく3つに分けられます。
●局所再発:最初にがんが発生した場所(原発巣)、またはその近くで再発した場合です。初回の手術でがんが完全に取りきれておらず、微少ながんが残っていたときに、再びそのがんが大きくなって発生してしまいます。
●領域再発:最初のがんの発生場所(原発巣)の近くのリンパ節、もしくは組織で腫瘍が成長し、再発した場合です。
●遠隔(全身)再発:最初にがんが発生した場所(原発巣)から離れた器官や組織に転移してしまった場合です。原発巣から離れている場所に発生するため遠隔再発と呼ばれます。がんの種類によって、転移しやすい組織や器官は異なります。
がんの再発率はどのくらい?
がんの再発率は、がんの種類やステージによって変動します。
同じ種類のがんであっても、がんが発生した場所やがんの性質によっても再発率は異なると言われています。
また、患者さんの体調や健康状態もがんの再発リスクに影響している場合もあるでしょう。
例えば死亡率が高い大腸がんでは、全体では約19%の患者さんに再発があることがわかります。
ステージⅠでは約6%、ステージⅡの場合は約15%、ステージⅢだと32%というように、データ上ではがんのステージが上がると再発率も高くなっています。
下記は、大腸がん治癒切除後のステージ別の再発率と、術後経過年数別累計再発出現率を示しています。(参考:大腸がん治療ガイドライン)
4. がんの再発・転移に対する治療法は?
再発したがんの治療法は、上記に示した再発の分類パターンによって異なります。
●局所再発の場合:遠隔転移がなければ、がんが再発した部分のみを手術で切除して取り除けば完治する可能性は高いです。
●領域再発の場合:遠隔転移がないのであれば、再発した部位やリンパ節を追加で切除することによって完治が期待できます。
●遠隔再発の場合:転移した場合は再手術するのが難しく、抗がん剤などの化学療法を行う全身治療によってがんの増殖を抑える治療が推奨されます。
再発したがん治療は、特に遠隔転移した場合は治療が難しくなってくると言われています。
転移してしまった場合、がん細胞が全身に増殖している可能性が高く、がんを切除する手術は適応にならないケースが多いからです。
抗がん剤などの化学療法でがんを収縮し抑えることは可能ですが、がんが完全に死滅することは少なく、転移による再発は完治させるのが難しいのが現状です。
がんの種類によっては、再発・転移の可能性を減らすために、診断や治療を早く始めるのが有効的でしょう。
それでもがんの再発や転移を完全に予防するのは困難であるのは事実です。
転移したがんや進行してしまったがんでも完治する場合もあるが、ほとんどのケースでは治る可能性は低いと考えられています。
がんの再発治療
がんの再発治療としては今のがんの症状の緩和・がんの進行抑制が目標となってくるでしょう。
しかし、がんの再発は体のどこで発症するかはっきりとはわかりません。
最初に発生した場所やその近くに出る場合もあれば、遠隔転移で別の場所に新たに発生する場合もあります。
手術でがんをすべて取り除いたとしても、目に見えない小さながんが残っていることもあり、微小ながん細胞が増殖して大きくなる場合も多いです。
がんは再発の場合でも、早期発見が治療を行ううえで重要であり、そのためにも治療後の経過観察が必要となってくるでしょう。
基本的に術後5年間は経過観察をして、5年以上経てば再発の可能性も低くなってくると言われています。
しかし乳がんなどの場合は、5年以上経過しても再発のリスクがあるため10年ほど経過観察する必要があります。
早くがんが発見できるほうが、対応できる治療の選択肢も増えてくるでしょう。
しかし早期発見するには、どうしても検査の回数が増えてくるので頻繁に通院する必要があります。
また、がんの再発治療を行っても、新たにまた再発する可能性もあります。
先ほども示したように再発したがんの治療は、完治させるのが難しい場合が多いのが現実です。
重要なのは、いかに手術後のがんの再発を抑制するかであり、再発予防のためには初期治療の段階で再発に対する治療法を考えておくべきでしょう。
がんの再発リスクと治療
最初にがんが発生した場所や悪性度、がんの種類によって再発リスクは異なるため、リスクが高いと診断されたときは再発予防のための治療が必要となってきます。
術後にわずかな小さいがんが残っているケースを想定して、抗がん剤治療・ホルモン療法などの全身治療を取り入れることが多いです。
再発リスクが高い場所だと予測できる範囲であれば、部分的にその場所に絞って予防的に放射線治療を行えます。
がんの再発が起こりやすい場所は、がんの種類や性質、治療経過などのデータから予測できる場合があります。
しかし再発予防の治療に至っても、副作用が起こるリスクがあることは受け入れなければなりません。再発リスクが高いがんの場合、基本的には再発予防の治療を行うことがほとんどです。しかし治療を行う判断は難しいとされています。
再発予防の治療として、抗がん剤を投与しても再発リスクが全く起こらないというわけではありません。
再発リスクに関しては、しっかりと患者さんにも伝えておくことが重要です。そのうえで再発予防のための治療を行うかどうか判断してもらうことになります。
再発治療のために、がんの早期発見はもちろん大事ですが、再発を予防するための対策も考えなくてはなりません。がんは再発を予防するのが、大きな鍵となってきます。
5. がんの再発・転移を予防するために
再発や転移したがんの治療は難しいと言われており、がんは再発予防がとても重要視されています。
現在は再発予防のための免疫細胞療法の研究が国内外で行われています。また、がんの発生リスクを少しでも下げるために必要なことを解説します。
再発予防のための免疫細胞療法
免疫細胞療法とは、元々体に備わったがん細胞を攻撃し排除するという免疫機能を担っている免疫細胞を使った治療のことです。
樹状細胞ワクチン療法やNK(ナチュラルキラー)細胞療法とも言われます。(参考:がん情報サービス>診断と治療>免疫療法)
患者さん自身の血液から免疫細胞を採取したのち、分離させて大量に増殖させ、攻撃力を付加させます。そして免疫機能を強化した細胞を患者さんに投与するというのが、一連の治療の流れです。
自分自身の体の免疫機能を強化することができ、免疫細胞の働きによって術後に残っているわずかながん細胞を攻撃し再発のリスクを減らしてくれます。がん細胞の強さより、免疫力が優位であれば治療の効果は現れやすいでしょう。
免疫細胞療法は、従来の化学療法のような大きな副作用が出るリスクが少ないのが大きなポイントです。
現在、がんの再発予防のために免疫療法を検討される患者さんが増えています。
免疫細胞療法は、がん細胞を体内から排除してがんの再発予防をするために、とても適している治療法だと考えられているようです。
現在、免疫細胞治療については、国内や海外で研究が進んでおり臨床試験などが行われています。がんにおける手術後の免疫細胞治療によって、再発のリスクが減るという結果が報告されています。
がんの再発予防のために、免疫細胞療法が有効的であると示されていることがわかります。
(参考:Efficacy of Tumor Vaccines and Cellular Immunotherapies in Non-Small-Cell Lung Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis)
がんの再発予防のリスク軽減のために
がんの再発を予防するためには、普段からの生活習慣の見直しも大事です。
国立がん研究センターの「がん情報サービス」では、がんの発生要因として「喫煙」、「飲酒」、「食物・栄養」、「身体活動」、「体格」、「感染」、「化学物質」、「生殖要因とホルモン」について記載されています。(参考:がん情報サービス>がんの予防・検診>がんの発生要因と予防>がんの発生要因)
日本人のがん患者のうち、男性は43.3%、女性は25.3%が生活習慣や感染が原因であると言われています。
特に喫煙は、がんの発生に大きく関わっています。
がんの発生リスクを軽減するには、禁煙・節酒・食生活・身体活動・適正体重の維持、という5つの生活習慣を意識して生活することが重要です。
国立がんセンターの追跡調査では、これら5つの健康に対する生活習慣を実践した人は、0または1つ実践する人に比べて、男性で43%、女性で37%がんが発生するリスクが減ったという結果が出ています。(参考:がん情報サービス>がんの予防・検診>がんの発生要因と予防>科学的根拠に基づくがん予防)
また、感染もがんの原因として挙げられています。B型肝炎・C型肝炎ウイルス(肝がん)、ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)、ヘリコバクター・ピロリ(胃がん)などです。
感染対策として予防や、除菌治療を行ったうえで、上記に示した健康習慣を取り入れることによって、がんの発生リスクは抑えられるでしょう。
6. まとめ
がんは複雑な病気であり、発生場所や種類、進行度によって治療法もさまざまです。
手術を行ってがん治療が終了した後に、またがんを再発させないために必要な情報や知識を知っておくことは重要です。
がん治療のもう一つの選択肢。漢方のいろは 〜漢方がん治療講座〜
●参考文献
国立がん研究センター がん情報サービス>症状を知る/生活の工夫>転移・再発
大腸がん治療ガイドライン2019年版
国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト>がん予防法研究
Efficacy of Tumor Vaccines and Cellular Immunotherapies in Non-Small-Cell Lung Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis
国立がん研究センターがん情報サービス>がんの予防・検診>がんの発生要因と予防