special がん情報誌の特集記事


がん情報誌『統合医療でがんに克つ』「がん治療と研究」特集記事より
──漢方がん治療の第一人者・帯津良一先生に訊く
「がん治療と漢方薬」を語る

中国医学をがん治療に取り入れたい―私と漢方薬の出会い

――漢方に対する帯津先生のスタンスについて教えてください。

帯津:私は漢方を対がん戦略のための一つの戦術として使うのであって、特別に漢方薬だけを使うことはよほどのことがない限りありません。西洋医学で抗がん剤治療を行いながら、免疫力を高めるために、あるいは抗がん剤が効かなくて、漢方薬を希望される場合です。

――漢方との出会いはいつごろからなのですか?

帯津:北京の李岩(り・がん)先生から習いました。李岩先生が北京市がんセンターの漢方薬部門にいたときに、私は東京の都立駒込病院に勤務していました。東京都と北京市が姉妹都市で、中国医学をがん治療に取り入れたいと思ったので、東京都にお願いして北京に行かせてもらったのです。そこで李先生と会いました。

わずか15日間でしたが、いろいろ教えていただきました。それが1980年9月のことでした。その後、1982年11月に帯津三敬病院を開院しましたが、そのときに李岩先生に病院に来ていただき、漢方薬による基礎をつくってもらおうと思いました。しかしなかなか実現できず、その後1、2年が経過して北京に中日友好医院ができました。日本が出資してつくった病院です。その副院長に李岩先生が抜擢されたのです。そこで川越の帯津三敬病院にお呼びし、1カ月滞在を3回ほどしていただいて、その後も、機会あるごとにやって来て、いろいろご指導をいただきました。私たちに漢方薬によるがん治療の教育をしていただきました。

臨床の場で使用されている漢方薬と、その役割

――臨床の場で使用されている漢方(薬)と、がん治療におけるその役割について教えてください。

帯津 私が処方する漢方薬は李岩先生の指導に基づいています。漢方の場合は、弁症といって症によって出す薬が異なります。基本的には以下の6つに分かれます。

01.「清熱解毒法」

清熱解毒法は、毒熱がたまってがんになったという考えで、熱をさますことです。

02.「活血化

活血化は、血の改善です。

03.軟堅散結

軟堅散結は塊があるものを溶かす作用があります。

04.「扶正培本」

扶正培本とは、精気が虚している人の精気を養うものです。

05.「清熱化

特に抗がんに用いるのが清熱化です。

06.抗がん

抗がん全般に用います。

漢方薬によりがんの症状が改善した症例

――漢方を用いてがんの症状が特に改善した例を教えてください。

帯津:漢方により患者さんの症状が改善した例については数多く経験しています。 林政明さん(昭和22年生まれ)は2009年1月にある病院に入院し、1月19日に食道がんの手術を受けました。2月に放射線治療と化学療法を行い、3月に退院。しかし4月になると右肩リンパ節に転移が発見されたのです。30ミリのがんでした。

5月26日にその病院からは化学療法の再開を勧められましたが、林さんは6月4日から玄米食を始め、そして6月17日には、漢方薬の相談に私のところにやってきたので処方をしました。

当時はペプチドワクチンが脚光を浴びた頃で、6月29日には大学病院に治療を申し込みに行ったそうですが、「順番だから、数カ月待つように」と言われたので、また私のところで治療を続けることにしました。帯津三敬塾クリニックで、右側のしこりに対応するためホメオパシーの治療も取り入れました。

その後10月14日になって、順番がきてペプチドワクチンを受けるために大学病院に行き、CTで調べたところがんが完全に消えていたそうです。そこでペプチドワクチンでの治療を止め、それからずっと漢方を飲み続けています。がんが発見されたのが2009年ですからもう9年間飲んでいることになります。

また彼は漢方薬だけではなくて、いろいろな治療を試み、取り入れてきましたので、それを奥さんが単行本にして出版されました。『がんが消えた奇跡のスムージーと毎日続けたこと』(林恵子、宝島社、2017)という書籍です。

漢方生薬を20種類以上も配合して開発された抗がん漢方の天仙液

――先生は抗がん漢方である「天仙液」も使っていらっしゃるとのことですが、「天仙液」についてはいかがでしょうか?

帯津:もう30年近く前のことになりますが、中国の吉林省に研究所のある王振国先生が「天仙丸」という抗がん漢方の情報をもってきました。漢方理論、医学・科学理論に基づいて長年にわたり研究を重ねた結果、6000種類以上あるといわれる漢方生薬の中から、20種類以上の漢方生薬を厳選し、最新科学技術によって配合、処方して開発された抗がん漢方薬だということでした。

それを聞いて、北京の立派な病院も使っているとのことで魅力を感じて、王先生のところに行ったわけです。 「天仙丸」は「天仙液」の前に開発された漢方薬ですが、それを持ち帰って患者さんに使ってもらったことがご縁で、「天仙液」を今も使うようにしています。

「天仙丸」は当初は、カプセルに入っているうえに、強すぎるのか日本人には胃腸障害が起きてしまい、常用量はむりなので、濃度を3分の1にして使っていました。そのことを日本の雑誌に書いたら、王先生の目にとまり、それではもっと胃腸に優しいものをといってつくったのが、液体にした「天仙液」なのです。

彼が中心になり大きな工場をつくり、北京をはじめ、いくつか専門に用いる病院もつくりました。天仙液と天仙丸はいわゆる弁証がありません。また本来の漢方とは異なるのですが、弁証なしに使う薬を中国では中成薬といい、「天仙液」はその代表といえるでしょう。

漢方薬による治療を受けるにあたって注意すべき点

――漢方による治療を受けるにあたって注意すべき点を教えてください。

帯津:漢方だからと言って副作用がないわけではありませんが、抗がん剤に比べたら微々たるものです。抗がん剤治療を受ける人は免疫力が落ちますから、漢方薬は抗がん剤と一緒に飲むように扶正培本の正気を高める薬が使い方としては多くなります。また抗がん剤を使わずに、免疫を高めつつ、がん細胞を攻撃する要素の入った漢方を使いたい人は、清熱解毒、活血化、軟堅教結なども使っています。リンパ腺転移が累々としているときは特に効果があります。

漢方は古い時代に発生した医学ですから、用いるのは、自然の中にすでにある草根木皮、動物、鉱物など、いろいろな成分が含まれている複合物質を原材料として使っています。食べ物の延長線上に考えることができます。そのため病状を改善させるだけではなく、病気に対する体質改善を目指すという意味では大いに有効だと思ってます。

がんは、5年経過すると、漢方薬を止める人もいますが、なかには10年続ける人もいます。心配だから続けるけれど、1日おきに飲むという人もいます。当院でも5年が経過したときに止めるかどうか相談しますが、1日おきに服用する方も含めれば、患者さんの半分の方が、10年以上は続けている患者さんもいます。

――貴重なお話をありがとうございました。

※がん情報誌『統合医療でがんに克つ』特集記事より

帯津良一
医療法人直心会帯津三敬病院名誉院長

1936年、埼玉県生まれ。東京大学医学部卒、医学博士。東京大学第三外科、都立駒込病院外科医長を経て、1982年に帯津三敬病院(埼玉・川越市)、続いて2005年には帯津三敬塾クリニック(東京・池袋)を設立。中西医結合医療を実践し、ホリスティックなアプローチによるガン治療の草分けであり、世界的権威として知られる。西洋医学はもちろん、さまざまな治療法を実践。ホメオパシー、気功、漢方薬、鍼灸、食事療法、心理療法、健康食品などの代替医療を積極的に取り入れている。帯津三敬病院名誉院長、日本ホリスティック医学協会会長、世界医学気功学会副主席、上海中医薬大学客員教授などとして世界的に活躍中
 陰陽とは人間では、体表―体内、上半身―下半身、右―左などで判断します。この陰陽の調和を改善して健康を保とうとするのが中医学、漢方、大きくは東洋医学の考え方です。 健康とはいつもバランスの上で成り立っているからです。今回は漢方やホメオパシー、サプリメント、気功なども取り込んでホリスティックな治療をしている帯津三敬病院の帯津良一先生に話を聞きました。