special がん情報誌の特集記事
35年間にわたって、ホリスティック医学における一定の方法論というものを追い求めて来ましたが、まだ、そのような方法論を手にしたわけではありません。しかし、最近では現状の
01.からだに対しては西洋医学を中心とする治しの方法
02.こころに対しては各種心理療法とともに患者さんと治療者が寄り添い合って心を一つにすること
03.いのちに対しては代替療法の多くと患者さん自らが行う養生法の多くと患者さん自らが行う養生法による癒しの方法
を駆使して組み立てる個性的戦略こそが、ホリスティック医学の方法論であると思えて来ました。代替療法の雄ともいうべき漢方薬もホリスティック戦略のなかにあっては硬軟自在、その使い方も個性的になります。今回はその一端をお示ししたいと思います。
症例01. 女性 68歳 胃がん
2001年5月 手術(某大学病院)
2003年7月 右肺下葉に異常陰影。
2004年12月9日 本院初診 漢方薬処方(単位は全てグラム):竜葵6 蛇苺6 川玉金6 当帰6 白花蛇舌草6
2005年3月10日 CTにて右下葉に数カ所の異常陰影。胸水なし、リンパ節腫脹なし。
2005年9月14日 CT不変 漢方薬変更:黄耆6 女貞子6 白朮6 茯苓6 夏枯草9 牡蛎6
2006年2月2日 CT不変
2006年4月13日 漢方薬変更:黄耆6 女貞子6 白朮4.5 寄生4.5 霊芝4.5 薏苡米4.5
2007年4月10日 CT不変
2007年9月26日 元気な様子!
2008年7月23日 CT不変(7年経過)
2009年2月5日 CEA:1.7 CA125:3.1 CA15―3:6.8 SCC抗原:0.6 SLX:20 漢方薬増量:黄耆9 女貞子9 白朮6 寄生6 霊芝6 薏苡米6
2009年7月16日 CT不変(8年経過) 元気な様子!
2010年9月22日 CT不変 全身の筋肉の硬直と疼痛。 漢方薬変更:防已5 黄耆5 白朮3 生姜1 大棗3 甘草1.5
2010年10月26日 疼痛和らいだので今月も同じ処方にする。
2010年12月29日 疼痛がおさまったので前の処方に戻す。黄耆6 女貞子9 白朮6 寄生6 霊芝6 薏苡米6
2011年2月9日 元気な様子!
2021年9月29日 左肺上葉に陰影。漢方薬変更:当帰3 芍薬3 白朮3 茯苓3 陳皮3 知母3 香附子3 地骨皮3 貝母1 薄荷1 柴胡1 甘草1
2021年11月16日 元気が出る処方! 漢方薬変更:黄耆4 人参4 白朮4 当帰3 陳皮3 大棗2 甘草1.5 柴胡1.0 乾姜0.5 升麻0.5
ずいぶんと長いですね。17年間も漢方薬を飲みつづけています。それも決して嫌々ながらではなく生活の一部になっているところがいいですね。
症例02. 女性78歳 両肺腺がん
2008年6月 右肺手術(某大学病院)
2009年9月 左肺に小さな陰影。少しずつ大きく。化学療法をすすめられるもご本人は希望せず。
2016年8月4日 本院初診 漢方薬処方:黄耆6 女貞子6 白朮4.5 茯苓4.5 麦門冬3 当帰6 半枝蓮6 ホメオパシー
2016年11月14日 Hb:15.1 CEA:2.5 SCC抗原:0.3 AFP:4.5 CT不変
2017年2月15日 喀痰が和らぐ。
2017年5月11日 喀痰、咳が和らぐ。
2017年11月2日 CEA:7.4 SCC抗原:6.5 AFP:4.5 CTにて化学療法をすすめられる。漢方薬変更:黄耆6 女貞子6 白朮4.5 茯苓4.5 麦門冬3 天門冬3 当帰6 石見穿6 石見穿は肺腫瘍の特効薬として処方。
(参考)
石見穿 シソ科アキギリ属植物 効果:清熱解毒、活血鎮痛、腫瘍誘発性疼痛にたいする鎮痛
応用:黄疸性肝炎、腎炎、月経痛、リンパ節結核、顔面神経麻痺、乳腺、子宮頸がんなど多種の腫瘍
適用:子宮筋腫、子宮頸がん、食道がん、胃がん、腸がん、肝がんなど
一向に肺がんが登場しませんが、私の中では石見穿=肺がんという構図ができあがっていました。おそらく私が漢方を学んだ、当時の北京市がんセンターの李岩先生の教育の賜物でしょう。
2018年3月22日 別の大学病院に転医。ここでの見解は前医と異なり、化学療法はおこなわず経過観察となる。ALP:364 Hb:13.9 CEA:2.1 KL―6:204
2018年9月27日 ALP:260 Hb:14.7 CEA:2.64 KL―6:234
2019年1月23日 突然、石見穿が品切れとなる。仕方がないので、もとの半枝蓮に戻す。
その後は来院せずに漢方薬を郵送するのみ。しかも1カ月間に7日ないし14日の服用とペースを落として続けて服用されていますが元気を維持しています。
症例03. 男性68歳 胃がん
2015年1月30日 手術(某総合病院) S1 Ly(+) V(+) LD転移4カ所 ステージⅢa
2015年8月 抗がん剤TS―1、5クール終了。
2015年9月30日 Hb:10.7、LDH:167
2015年10月8日 本院初診 ホメオパシー 漢方薬処方:黄耆6 女貞子6 白朮4.5 寄生4.5 霊芝4.5 薏苡米4.5
2015年11月25日 Hb:12.7 LDH:182
2016年1月6日 抗がん剤TS―1、8クール終了。
2016年2月18日 手足の冷え、軟便、全身倦怠感、食欲良好。Hb:11.2 CA―19:正常 CT:異常なし
2016年4月 仕事に復帰する。
2016年4月25日 Hb:12.3 LDH:175
CEA:5.49 CA―19:7.41
2016年8月3日 仕事も順調の様子。
2016年10月26日 CEA:3.88 CA―19:6.41 Hb:12.2 LDH:18.3
2017年1月11日 CEA:4.67 Hb:13.1 CA―19:7.41 ALP:164
2017年2月8日 仕事が忙しい様子。化学療法終了。
2017年4月19日 CEA:4.37 Hb:11.8 CA―19:6
2017年5月17日 1cmの右肺下葉腫瘍が見つかる。
2017年5月31日 手術(右下葉切除)転移かどうかは不明。
2017年6月27日 CEA:2.54 Hb:12 CA―19:4.1
2017年7月6日 化学療法 漢方薬変更:黄耆3 人参3 白朮3 茯苓3 当帰3 芍薬3 熟地黄3 川芎3 桂枝3 甘草1.5
2017年9月 某がんセンターにセカンドオピニオン、そのまま転医。転移巣のない時間のほうがはるかに長いという理由で化学療法中止。
2018年4月26日 CEA:3.6 Hb:12.4 CA19―1:6 LDH:161
2019年10月7日 CEA:4.0 Hb:12.7 CA19―1:5 ALP:224
2019年10月17日 手足の冷え。その後コロナのため来院せず、漢方薬のみ続け、現在に至る。
手術、化学療法、代替療法そしてセカンドオピニオンに至るまで、提案に従って、淡々と受けているところがいいですね。素直さのなかの粘り腰というところでしょうか。
おわりに
最後に抗がん中成薬の「天仙丸」について少し触れたいと思います。1987年8月15日の朝日新聞で、北京発新華社電として中国で漢方の薬草を原料とする新しい抗がん剤が開発され、臨床試験で高い有効性を示したということが紹介されました。
それから1年ほどたったある日、この天仙丸の共同開発者である天津医薬科学研究所の李徳華氏の訪問を受けて天仙丸に対する興味をかきたてられ、1989年4月にこの天仙丸の開発者である王振國氏の招きで、吉林省通化市にある「長白山薬物研究所」を訪れたのです。
それ以来、天仙丸とそれを飲みやすく液体にした「天仙液」との長いお付き合いが続くわけですが、このたび天仙液の日本の窓口であるNPO法人健康養生塾協会の大屋玲子氏の取材を受け、2011年にアメリカ国立がん研究所(NCL)において天仙液が審査され 「THL―P(天仙液)は、抗酸化作用、免疫調整作用、抗腫瘍作用をもつ経口漢方薬である」と正式に薬局方コートが授与され、公式サイトに定義、効果が掲載されたことを知った次第です。心強いかぎりです。
※がん情報誌『統合医療でがんに克つ』「がん治療と漢方」特集記事より